六枚のスケッチ 9

「六枚のスケッチ」は、大学の講義ノートのようなものであるのかもしれません。
もちろん、この内容で講義をしたということではありません。
 最初の講義は、森有正さんの経験についてであります。タイトルは「求道者の
経験」となります。35ページほどで、「途上にあること」「『経験』の発見」
「感覚と思考」「変貌の風景」「疲労の意味」という章立てになっています。
「いずれにせよ森氏自身は、絶えず『歩行』するひとであり、引用に便利なまとめ
ふうの、解説や解釈や説明はしないのですから。」とあります。
 森有正さんの著作との格闘でありますが、かってはずいぶんと読まれたように
思いますが、当方は苦手でありました。なにせこちらの読書は安楽な方向へ流れる
のでありますからして。
 当方には、この「六枚のスケッチ」を読むにあたって虎の巻がほしいと思うので
ありました。ありがたいことにこの「六枚のスケッチ」のおわりにで、この森さん
のくだりについて、短くまとめています。
「『経験』と言う言葉に膠着して、哲学の方法で森有正氏は異国の孤立のなかで、
この言葉の意味をもとめ続けますが、抽象力による造型は感覚のからみついた自然
・人間風景に密着していて、『経験』はもうどこにもころがっていても、ひとりの
人間の体臭を放っていて、私の足を釘付けにする日常の言葉と化しています。
この求道者の言葉は重い。それは私自身と『経験』とのあいまいな距離をくりかえ
し測定させずにはおきません。」
 森有正さんについての35ページほどでも、読むことができず、結局はおわりにの
ところにあるこのまとめがなくては、歯が立たずであります。