平凡社つながり 9

「百科事典の編集は、たいへんな費用と年月がかかるのに、完結販売するまでは費用の
一部しか回収することができない。当然、予約販売もするが、その部数はかぎられてい
る。平凡社はしだいに金ぐりに苦しむようになり、やがて原稿料や給与を分割払いに
しなければならないという事態を迎えた。」
 これは小林祥一郎さんの著書にあるくだりです。この「百科事典」は、大ブームに
なった「国民大百科」のことをいいますが、これが予想以上に成績がよかったことから、
資金的に余裕ができて、そのあとの大型企画につながっていったようです。
 70年代後半になると、百科事典が売れなくなって平凡社は経営危機となるのですが、
その時に一番問題となったのは、人件費が増大していることであったようです。
「文明と経済の無情で大きな変化があり、それに対抗するにしても、便乗するにして
も、出版社には困難な道が予想されるが、経営陣も労働組合も、そのつらい覚悟と実行
が足りなかった。わたしたちが行った改革案は一時的に危機を切り抜け、念願の新百科
事典の編集をつづけることに成功したけれど、中途で挫折した。・・・ 
 はじめての『国民百科事典』をつくるために、下中新社長のもと、多くの編集幹部や
編集者が、応援態勢におうじたあの時代の融通性は、会社組織にも労働組合にもうしな
われていた。」
 印刷された百科事典は、これからは刊行されることがないのかもしれません。
あちこちの家庭にあった百科事典は、いまや紙ゴミとして処分されようとしています。
出版物としての価値はなくなっているようで、これの製作に人生をかけた人たちがいる
ことを思うと、これでいいのかと思ってしまいます。
 デジタル時代の百科事典ということで、企画されたのがマイクロソフトの「エンカル
タ」でありますが、これの日本語版に、小林さんはかかわることになりました。