平凡社つながり 2

 出版社というのは、製造業などどくらべると会社規模は小さく、有名な出版社ほど
オーナー家が関わっているのではないでしょうか。講談社中央公論社岩波書店
平凡社などは、みな創業者の強烈な個性によって会社の骨格を作ってきました。
これらの会社のなかで、いまも刊行本の奥付に創業者一族の名前が記されているは
どこでありましょう。
 平凡社は、いまでも創業者から数えて三代目くらいの方が代表をつとめているよう
でありますが、いまの平凡社は、百科事典が売れて売れての時代とくらべると会社は
小振りとなっているようであります。
 平凡社つながりといえば、平凡社編集者であった嵐山光三郎さんに「口笛の歌が
聴こえる」というのがありまして、嵐山さんのこの小説には、小林祥一郎さんは登場
しているようですが、嵐山さんのボスと小林さんはライバル関係にあったようです
ので、小林さんと嵐山さんはつながってはいないようであります。
 嵐山さんの「口笛の歌が聴こえる」は、84年3月から12月まで「平凡パンチ」に連載
されたものでありますが、「平凡パンチ」でありますからきわめて読みやすくなって
います。小説ですから現実の人物を誇張しているところもありましょうが、平凡社
社風の入門書としてはわかりやすくていいでしょう。

口笛の歌が聴こえる (新風舎文庫)

口笛の歌が聴こえる (新風舎文庫)

 どうして平凡社には、いろんなさむらいが集まったかについて、嵐山さんの本には
次のようにあります。
「この会社は、先代社長が大人物でな。よその会社の争議でクビになったのを、みんな
いれちゃったんだよ。」
「平然社の社員といったら、どいつもこいつも無頼で、浪人、旗本、鼠小僧、岡っ引き
入り乱れているようなのだ。昼から日本酒飲んでいるアル中風情がいるし、
血のメーデー被告団はいるし、もと大手会社組合委員長は5、6名はいるし、プロレス
記事の名人はいるし、空手達人二名、剣道家一人、右翼三名、反日共系勇士八人、
日共系勇士二十三人、有名詩人四名、無名詩人五名、アナーキスト1名、ダダイスト
1名、大学教授七名、踊りの師匠一名、芸術祭審査員一名、映画監督一名、ダンサー
一名、動物学者二名、テレビタレント一名、作家三名、植物学者一名、画家二名、
絵本作家一名、ラーメン屋一名、悪者一名、連れ込み旅館主人一名、各種学校アルバイ
ト講師四名、行方不明者一名、あと、いろいろとりまぜて、無頼の徒が書物に虫食いの
巣窟を作っているのだった。」
 さすがに、嵐山さんが入社した65年には、さすがに試験が採用試験が実施されていて
こねが通用することはありませんでした。
「勉強嫌いの英介は、この半年ばかりは、人が変わったように図書館へ通った。・・
 英介の就職希望は、出版社だ。
 当時の出版社の合格率は百倍、百五十倍というのはざらだった。講談社は三百二十倍、
朝日新聞は五百三十倍、TBSは百八十倍だった。
 岩波書店、新潮社、筑摩書房といったところは、最初から応募資格を東大や早慶
いった一流大の成績優秀生にしぼっていたから、八十倍ぐらいの競争率だったが、
広くどこの大学へも応募資格を認めるところへ、希望者は殺到した。」
 平凡社の社員は二足のわらじの人が多いということからは、嵐山さんもそうでありま
して、編集者は本名で、嵐山のなまえでは売文業をやっていたのでした。