今年も山猫忌 6

 昨日に柳生さんの絵に添えられた高橋悠治さんの文章を引用しましたが、引用後半
の部分は、長谷川四郎さんの作中にある「詩」です。
 昨日の絵に対応する四郎さんの「アラフラの女王」文章は、次のようになっています。
「ところかわれば、しなかわる、なんて言ってさ、世の中にはいろんな変わった習慣が
あるもんだが、ハハハ部落には、とくべつ変わったこともなかったね。そう、ちょいと
変わったことっていうと、ハハハ部落には墓というものが一つもないくらいのこと
だったよ。墓がないといったって、人が死ななかったわけじゃない。人は生まれたり
死んだりするものさ。どこに住んでいようとね。『ようし、おまえたち、赤ん坊が生ま
れたら、その家のまえで音楽をやれ。それから人が死んだら音楽やれ。』と、ずんぐり
むっくいが言って、これがおやとい楽隊の任務みたいなもんで、そのためにめしにあり
ついたんで、さっきもいったように、赤ん坊が生まれると迎えにきたし、人が死ぬと
迎えにきたもんだ。わしは一度、おやとい楽隊にくっついて葬式にいったことあるよ。」
 語っているのは、むかし舟乗りだったおじいさんであります。
「お葬式のあった晩だったが、楽隊七人とわしと、ぶらぶら散歩にでかけた。・・・
歩いていくうちに七人組はしぜんとうたいだしてたもんだ。七人組はなんでも、その場
で、つくり出し、それが歌になって出てくるんだな。もっとも、そうすらすら出てくる
わけじゃない。一人がうたいだすと、ほかの六人が『そりゃいかん』と言い、つぎのが
うたいだすと、ほかの六人が『そりゃいかん』と言い、こんなことをしているうちに、
しまいには、七人が七人、ぜんぶそろってうたいだすことになるんだ。文句はその場
その時で口から出てきて、一度も同じ歌をうたったことなくて、みんなその場で空中に
消えちまったよ。だけど、七人組にわしもくっついて歌いながら道路をあるいてくと、
両側の家々から娘っこどもが出てきて、いっしょになって、うたったもんだ。
  七つの海が立ちあがり
  七つの星をかぶってる
  ニジがのぼって七色だ
  水平線は七本あるぞ
  ねむれねむれ七つ児よ
 なんて歌の文句だけ、おぼえとるよ。」
 七人組にかけた七にちなんだ歌ですが、高橋さんはこのところを、すべてひらがなで
表記して採用しているのでありました。