セ・パ さよならプロ野球12

「セ・パ さよならプロ野球」の縦糸は、主人公が一年間働かずに、パ・リーグ
野球記事のスクラップをすることでありました。ロッテ球団の新聞記事だけでは、
なかなかスクラップブックが埋まっていかないので、パリーグまで対象の範囲を拡げ
て、夏の期間には高校野球の記事もスクラップすることになりました。
 この縦糸は、83年の野球シーズンが終わりますと、否応なしに切れてしまうことに
なりますので、次のことを考えなくてはいけませんです。
「 職探しを、プロ野球のドラフト会議にあわせて十一月二十二日に始めようと敏男は
決めた。スクラップ作りはやめたが、今までと同様に、川崎駅へ出かけてスポーツ紙を
拾ってきた。街路樹のイチョウが朝の光で黄金色にかがやいている。その落葉の一枚
をつまみあげて、さぁて働くんだと敏男は自分に言いきかせた。なにに使ったのか貯金
は半分近くに減っている。形として残ったのはスクラップブック三十冊だけだ。」
 この縦糸では、ロッテチームにスポットがあたるのですが、なかでもまったく
無名の「佐藤文彦」という選手に注目することになります。普通であれば、将来性が
ありそうだからとかいう理由になりますが、この佐藤選手は、テスト生からのスタート
でありまして、ロッテ球団に属しているとはいうものの、二軍の試合でさえもでること
ができるかどうかという存在です。
 この佐藤選手は、もちろん実在の方のようですが、作中での紹介では次のように
なっています。
 まずは、このかたを紹介する切り抜きの記事からです。
「ロッテに新人テスト生誕生。十月末からテストを繰り返していたロッテは、佐藤文彦
投手(22) 1メートル85、78キロ、右投げ右打ち、、宮城県・南郷農出、自営業
の採用を決定した。百人近いテスト生のなかから選ばれた佐藤投手は、50メートル7秒
遠投91メートルで規定課目をパス、身分は打撃投手扱い。
 佐藤投手は石巻高のエースとして活躍。卒業後は家業の電気工事業を手伝うかたわら、
地元の野球クラブ投手として活躍していた。ロッテ三宅スカウト部長。『大勢の中から
佐藤一人だけが決まった。当分は打撃投手として慣れてもらうが、将来は支配下投手と
して登用のチャンスもある。見どころのある器だ。体格もプロ向きだし、期待している。」
 この佐藤投手が、二軍戦にでも登板することがないかと、新聞のチェックにも力が
はいるのですが、そんなにプロ野球の世界は甘くなしです。