中村とうようさん追悼 14

 とうようさんは、自分のことを「何でも夢中になるタチなので」といっていますが、
当方は、むしろ意識して距離をおくことで、「夢中にならない」というのを心がけた
かもしれません。当時の高校生から大学生は、とりあえず太宰の作品にはまるという
のが一般的であったとすれば、当方は、そうした作品には近づかないということで
やっていこうと思ったわけでありますね。
 とうようさんの影響を大きくうけながら、とうようさんがすすめる音楽に入れ込む
ことがなかったというのも、音楽に対する感覚がちがったからなのかも知れません。
予備校でであった音楽好きの人たちは、食べるものも食べずにレコードを買っていた
人がいましたからね。当方は、すこし本を購入するほうに傾斜していましたので、
ほとんどレコードを買うことはなしでありました。
 「ミュージック・マガジン」10月追悼号に「中村とうようを思い起こさせる一枚」
というアンケートがあって、22人の方の回答が掲載されていますが、この中に当方が
持っているアルバムは、たった一枚でありまして、これを見るまで、当方は、この
レコードが中村とうようさんと関連づけられるものとは思ってもいませんでした。
これをあげているのは、小西康陽さんです。
 もともと当方は女性のジャズボーカルが好きでありまして、それもアン・バートン
というオランダの歌い手さんのファンであったのですから、軟弱きわまりなしで
あったのです。そうしたときに、メル・トーメというのをなぜ購入したのか、しかも
メル・トーメのものはこれ一枚しかないのですから、不思議でしたが、この小西さん
の文をみて納得であります。

メル・トーメ・スウィングズ・シューバート・アレイ

メル・トーメ・スウィングズ・シューバート・アレイ

 中村とうようさんは、「ぼくは『自由分子』志願」のような立派な面が前にでがち
でありますが、たまには気弱になった時に聞くような音楽をすすめてくれたりもしま
した。
 こちらは、ポレミークなとうようさんよりも、人間的な弱さがちらっとのぞかすよう
なとうようさんが、このましいと思われました。
 そうしたことから当方にとって「中村とうようを思い起こさせる一枚」というのは、
これになります。
ハリー・ニルソンの肖像

ハリー・ニルソンの肖像