小沢信男著作 57

「あほうどりの唄」に収録された「十歳の綴方ほか」の章にある作品は泰明小学校
2、3年の綴方がありまして、これはまさに珍品であります。この本は、この章に
収録された文章のために作られたのではないかと思われるほどです。あわせて掲載の
絵もほほえましいことです。
 この章から、作品を引用するとなると、やはり「雪とえれべえたあ」となりますで
しょうか。「旧悪、ほどでもないが稚拙な習作が、まさか露顕しようとは」とあった
ように、2010年に「赤とんぼ縮刷版」に再録されているのですから、小沢信男さんも
引用を許して下さるでしょう。

 ちらちら雪がふりだした
 そとはまっくら冬の晩
 ぼくは窓べによりかかり
 雪がふるのをながめてた。
 雪はあとからあとからと
 音もたてずにふってきて
 空の上から地面まで 
 白いすだれでとざされた
 部屋の電燈にてらされて
 窓のそとだけくっきりと
 そこだけことに白かった。
 おなじはやさで音もなく
 どんどんさがる雪すだれ
 見ているうちに
 こんどはかえってはんたいに
 ぼくのからだがお部屋ごと
 ぐんぐん上へのぼってく
 えれべえたあだ、とまらない
 これはゆかいだ、たいへんだ
 雪ふる晩のたんけんだ
 かまわずのぼれぐんぐんと
 雪のごてんにとどくまで。

 この作品は19歳の時に書かれたもので、「赤とんぼ」47年5月号に掲載された
のですが、この作品は掲載時に選者によって手がはいっているとのことで、
それについて書かれたのが、「本の立ち話」にある「頂門の一針」でありますが、
これは入手可能なものですから、「本の立ち話」を手にとってご確認ください。