小沢信男著作 59

 佐多稲子さんの「私の東京地図」という作品に関しての小沢信男さんの評論は、「新日
本文学」に掲載されて、その後83年に刊行となった「いまむかし東京逍遥」の巻頭を
飾っています。「あほうどりの唄」の紹介が終わりましたら、また「私の東京地図」に
ついて触れることにいたしましょう。( その前に「私の東京地図」を読まなくてはいけ
ないですね。当方の持っている版は、筑摩書房からでた「現代日本名作選」の一冊で、
昭和28年に刊行となったものと、むかしの講談社文庫版です。最近はこの作品は入手が
難しいのかな。)
「あほうどりの唄」で佐多稲子さんに続いて登場するのは、関根弘さんです。
関根弘さんは、小沢さんの「通りすぎた人々」にも登場します。この本でとりあげて
いるのは関根さんの著作「針の穴とラクダの夢」です。
「ドラマチックな物語ではない。回顧小説風に首尾結構ととのった作品では、なおさら
ない。むしろ雑然たる記録です。なにしろ四十年の半生涯を一冊本に叩き込むのだから、
メモ風に忙しくなるのもむりないが、そのくせ、いや、それゆえにというべきか、贅肉
のない精神が章から章へ貫いて爽やかなのだ。
 そして舞台は、徹底して東京である。そこであたかも、一個のプロレタリア少年が、
負けん気の顎をつきあげつむじ風となって東京の町々を迷走するうちに、いつのまにか
革命的インテリゲンチア詩人となり、やはり迷走をつづけている・・かのようにも見え
る。関根弘の<私の東京地図>である。」
 この文章は、そのまま「通りすぎた人々」における「関根弘」さんにつながるでは
ありませんか。関根弘さんの顔は写真でしかみたことはありませんが、「負けん気の
顎をつきあげつむじ風」(これはそのまま俳句のようではないですか。)といわれると
印象がぴったりのようです。