ブロンテ 実生活の視点 10

 「ブロンテと芸術」の最後に置かれた佐藤郁子さんの「ブロンテとレース」の最後の
ところで、追記のようにして次のようにあります。
「レースと教会の関係は、上流階級の人々が信仰心を表す手段の1つとなっていたことは
すでに述べたとおりだが、それを実際にシャーロットが見ていたかを明確にすることが
出来ない。・・もし見聞きしていたらと想像し、教会に関連すると考えられるレースや
天国への導きと考えられるレース、『ヴィレット』で描かれている小物、シャーロットが
覚えたかもしれないタティングレースを、習得用に使用されてきた図案を参考に作成を
試みた。巻末に乗せた基礎の編み方仕様でタティングをお創り頂けると嬉しい限りである。」
 この論文を目にして、一番驚いたのは、ここから先のページであるのかもしれません。
 まず、巻末にはタティングレースの編み方についてが手芸本から引用され掲載されて
います。ここだけ見ますと、まるで手芸本のごとくでありますが、論文著者の手による
レース作品が数多く写真で紹介されています。その作品は、シャーロット・ブロンテ
小説のなかで「レースの縁飾りがついてきれいな」と表現しているものを具体的に理解
できるようにしたものです。「ボンネットの縁飾り」「「聖書や祈祷書にはさむ十字架を
デザインしたブックマーカー」「幼子の誕生に『幸福な人生を歩むように』と祈りをこめ
たベビー・シューズ」「ロザリオなどを入れるポーチ」などなどが制作されていますが、
論文を執筆するよりも、むしろこちらの制作のほうが数倍も時間を要したのではないかと
思われる労作であります。
 一般的には、そんなことをしているのであれば論文のひとつでも書いたらいかがかと
いわれそうな余技でありますが、文学世界の理解のために自ら手を動かして体験し、理解
を深めるというのは、きわめて重要なアプローチであるように感じるのでした。
 レースを編むという作業が女性にとってはたしなみであるとともに、尊敬されない女性
にとっては仕事になっていたという行為の二面性を理解するためにも、この巻末資料は
役に立つのでありました。