署名本と献呈本 5

 昨日は阪田寛夫さんが、次女である阪田なつめ(大浦みずき)さんに贈った『土の器」
が、長い旅をしたのち、なつめさんの手に戻ったということを記しました。
 そういえば、先日に「日本の古本屋」で確保した阪田寛夫さんの「燭台つきのピアノ」
は、値段は安かったのですが、万年筆で阪田さんのサインと献呈がはいっていました。
阪田さんのサインをほとんど見たことがないので、これが本当に阪田さんの字であるのか
どうかわからないのでありますが、人気作家のサインであれば偽造ということもあるのか
もしれませんが、地味な作家でありますからして、サインを偽造してどうするのかであり
ます。
 本日の仕事帰りに、新刊本屋に立ち寄りました時に、そういえば「en-taxi」でている
はずと雑誌の棚を見てみました。今回の特集は「忘れられたひとびと」というもので
ありますが、このなかには当方にとっても「忘れがたきひとびと」がとりあげられてい
て、これは買いであるかなと思ったのです。
 購入することにした決め手は付録で「競輪必勝法」能島廉という文庫がついていて、
それの目次に「能島廉年譜 阪田寛夫」とあったからであります。
 このような作家がいたことは知りませんでした。この作品が付録となってでたのは、
坪内祐三さんの計らいでしょう。この付録にも解説を寄せています。(こうなると、
どちらが付録かわからなくなります。)
 能島廉さんは、第15次新思潮によった作家でしたが、35歳で亡くなった方とのこと
です。ご本人の死後にただ一冊の作品集となった「駒込蓬莱町」(集英社)がでました
が、この本はほとんど話題になることもなく、入手困難となって今にいたってました。
 まずは、この「en-taxi」を手にしてみてください。

en-taxi No.31 (Winter 2010) (ODAIBA MOOK)

en-taxi No.31 (Winter 2010) (ODAIBA MOOK)

 最近入手の阪田寛夫さん「燭台つきのピアノ」には、第15次新思潮時代の回想記が収
録されています。1972年にでた「第15次新思潮自選小説集 愛と詩と青春」への解説」
となるものです。
「創刊号を三人(三浦朱門阪田寛夫、そして荒本孝一)で出したあと、荒本は、四人
目の同人として陸上競技部の後輩の野島良治をひっぱって来た。野島は陸軍幼年学校から
戦後進学して高知高校陸上競技部に入った人物だ。・・野島も足のふくらはぎに見事な
撓いがあった。彼はのちに本当にキャプテンを勤め、京都大学グランドで開催された
『インター・ハイ』のハンマー投げで二位に入賞した。野島は色あくまでも黒く逞しく、
学業成績も抜群で、誰もが東大法学部への信じて疑わなかった。ところが、学友や両親
の期待を裏ぎって文学部の独文科を志願したために、『あいつと文学と、どこに関わりが
あるのだろう』と関係者一同が呆気にとられたと聞いている。・・・
『男は野島』の能島廉も『駒込蓬莱町』『競輪必勝法』という名作を置土産に壮烈に
死んで行き、雑誌は既にその前に廃刊されて久しい 」 
 能島廉さんお壮烈な死というのは、今回の付録の文庫版にある阪田寛夫さん作成の
年譜を見ますとなるほどと思われます。
 この付録の文庫版の、最終頁にありますのは、次の二行です。
「 本書収録作品の著作権についてお心当たりのある方は、左記までご連絡いただけれ
ば幸いです。」