署名本と献呈本 4

 献呈本が古書店にでてくるのは、贈られたかたが処分したか、誰かが持ち出して
売却したかでありましょう。本もたくさんあれば、誰かが持ち出したとしても、一冊
くらいでは気がつかないこともあるでしょう。(小遣いほしさにおやじが大事にして
いる本を古本屋へ売却するなんて、いかにもありそうな話しではあります。)
 花田清輝さんの本が古書店にでたのは、花田さんが亡くなり、息子さんが仙台の大学を
定年退職されて戻り、自宅を二階家に改築したおりに、自宅を整理した時ではないかと
小沢信男さんは書いています。それまでは平屋であったとのことですから、きっと資料
などでたいへんであったのでしょうね。こうしたものを処分しなくては、改築どころでは
なかったと思われます。

 最近手にした本にでていた献呈本に関しての奇跡のような話を引用しましょう。
「 川口京子さんのコンサートの常連のお客様Sさんが、父の本(ほとんどが絶版)を
 古本屋やネットで捜して読んでくださっているそうで、先日『土の器』を入手された。
 本の扉を開けて驚かれた。『阪田なつめ様 阪田寛夫』と書いてあるではないか。
 川口さん経由で、なつめにと本を返してくださった。なつめに聞いたら、宝塚を
 引き揚げる際に本を整理していて、手伝ってくれた人に『こっちはいらない本』と
 間違って必要な本を入れた段ボールを指し示し、どうも古本屋に売られてしまった
 らしい。しかも、十七年間全く、気づかなかったとは。
 『奇跡だね』
 『おじさんが、なっちゅん、頑張れよっていってるみたい』
 嬉しかった。」
 阪田寛夫さんへの興味から、大浦みずきさんに関するものも手にしております。
大浦みずきさんは、昨年11月14日に亡くなりましたが、その一周忌にあわせてお姉さん
である内藤啓子さん(大浦みずきさんの個人事務所社長とのこと、その前は阪田寛夫
さんの個人秘書だそうです。庄野潤三さんの葬儀で弔辞を読まれてました。)が書かれた
赤毛のなっちゅん」(中央公論新社)からの引用です。
「土の器」は阪田寛夫さんの芥川受賞作で、作者の母親について書かれた作品ですが、
これが闘病生活にはいっていた大浦みずき(本名 阪田なつめ)さんのもとに届けられ
たのですが、その1年後には、大浦さんはお亡くなりになりました。
 

赤毛のなっちゅん―宝塚を愛し、舞台に生きた妹・大浦みずきに

赤毛のなっちゅん―宝塚を愛し、舞台に生きた妹・大浦みずきに