文化勲章のこと 4

 文化勲章というのは、文字通り文化人としての上がりのような位置づけであり
まして、中にはこれを受けることを目的に創作活動を行う人もいるのではと思わ
れます。そうした目的と手段を取り違えた人のほとんどは受賞に成功していないと
思われますが、受賞するためには業績だけでなく、その人柄や運なども大きく影響
するのでありましょう。
 若くして文化勲章を受けるのは、ほぼノーベル賞受賞者ときまっていますが、
年長者の場合はどうでありましょう。
 数年前に吉田秀和さんが受賞したときには90歳をいくつかこえていましたので、
長生きしたことへのご褒美というような記事を見たようにも思います。
 文化功労者となった人に選出されたとなると、次は文化勲章候補名簿へエントリーと
なるのでしょうが、たいていは待っているうちに亡くなってしまうのでしょう。
 亡父が尊敬してやまない土屋文明先生が、めでたく文化勲章を受けられたのは
1986年、96歳の時でありました。歌人文化勲章を受けた人は、ごく少ないのであり
まして、次は文明先生というのが、文明先生を師と仰ぐ、アララギに集う多くの門人の
願いであったでしょう。
 朗報が届いた年には、名誉都民ともなって、ちょうどその年に、当方は東京に住まい
していたせいもあって、名誉都民に選ばれたことを知らせる都の広報を父のところに
送った記憶があります。
 文明先生は、歌人としては斎藤茂吉に及ばないのでしょうが、人物と指導者として
優れていて、文明先生の受賞は、多くの門人をも幸せにしたのであります。