国語の教科書

 雑誌「考える人」31号 2010年冬号に丸谷才一さんへのインタビューが
のっています。聞き手はいつもの湯川豊さんで、今回のテーマは「日本人はなぜ
日本語論が好きなのか」というものです。
 口火をきる湯川豊さんは、「丸谷さんが『日本語のために』(74年)をだして、
これはその後の日本語論ブームの先駆けの役割を担ったという気がします。・・・
中心になっているのは、国語教科書批判、つまり国語教育批判ですね。いたずらに
文学づくのはよそうなどという大胆な発言があり、批判はじつに徹底していました。」
といいます。
 それを受けて丸谷さんは、次のように発言します。
朝日新聞の書評委員会で『中学生の息子の国語教科書をひょいと見てみたら、
これがじつにひどいものなんだ。』という話をしたんですよ。担当デスクが『どんな
ふうにひどいんですか』と聞くから、『悪く文学的なんで困るんだ。文学的に質が
高いんならいいんだけれど、くだらなく文学的だから、あれでは子どもみんな文学
が嫌いになる」といって、いろいろ例をあげて話した。」 
 この時期しばらく丸谷さんは、国語教育や古典についての著作をつづけてだして、
これは息子の受験勉強に資するためではないかといわれたりしたものですが、それは
さておきです。
 丸谷さんがこのようにいう背景には、「僕自身がとてもいい国語教科書で教わった
ということがあるんです。」とあります。
「国語教科書で僕がいままでに感心したのは、明治時代に坪内逍遥がつくった『国語
読本』、それから僕が教わった『岩波国語』、戦後のものでは筑摩書房の教科書が
かなりいい。しかし一番いいのは谷川俊太郎大岡信がつくった小学一年生のための
『にほんご』(福音館書店)で、これは検定を受けようという気持ちがなくてつくった
ものらしく、すばらしい出来です。その四つです。
 教科書批判をやるときに全部の教科書を集めて目を通したのですが、筑摩の教科書
は突出してよかった。しかし、採択率は問題にならないくらい、一番低い。」
 戦後のもので一番いいのが福音館書店「にほんご」といわれても、これが現実の
小学校で使用される可能性はゼロでありますから、戦後の学校で使われた国語教科書
としては、筑摩書房のもの以外はだめといわれてることになりますが、これで教えを
受けた人は、相当に珍しいということになります。
 最近の筑摩教科書というのは、筑摩のホームページをみたらとりあげられている内容
も見ることができましたが、書影として利用できるものは、いまから10年ほど前の
筑摩教科書の学習書のようです。(丸谷さんが、教科書批判をしたときに目を通した
筑摩教科書とは違うものです。)

573国語I改訂版 (学習書)

573国語I改訂版 (学習書)

にほんご (福音館の単行本)

にほんご (福音館の単行本)

 採択率が低いということは、筑摩教科書になじんでいる人は少ないということです
が、当方は、いまから40年ほど前、当時「現代国語」とよばれていた科目の教科書は
筑摩書房でした。(このことは、以前にもちらと話題としたことがありました。 
 http://d.hatena.ne.jp/vzf12576/20070331 )