薔薇と不動

 本日の新聞には、サントリーが11月から「青いバラ」を発売することになったと
ありました。20年の歳月と30億円の開発費をかけて取り組んできたのが、
やっと花開いたようです。
http://www.suntory.co.jp/company/research/hightech/blue-rose/index.html
青いバラ」というのは、これまで、この世に存在しないもののたとえでありました
が、これからはそうはいかないのかな。
 本日のタイトルである「薔薇と不動」というのは、どちらも頭に色がつくのであり
ますが、これをみただけでわかる人にはわかる「虚無への供物」であります。
中井英夫さんの小説「虚無への供物」には、次のようにありです。
「 薔薇と不動と犯罪との間には、ある関係式がなりたつんだ。つまり不動と薔薇は、
それぞれ青、赤、黄の変数を持ち、犯罪は放火、殺人、犯人という三つずつの変数を
持った函数が成立する。
 f(不動・薔薇・犯罪)=0 」
 目黒とか目白とかいう地名は、いずれもお不動さんがあったことによるものですが、
この小説を読んで、目赤不動とか、目黄不動目青不動というのがあったことを
知ったのですが、この目青不動と青い薔薇を関連づけるのが、「虚無への供物」の小説
世界です。
「 世田谷では、目青不動、青い薔薇、放火の三つが揃ったのは君たちもみている。
それだけではどうということもないけれど、実はね、戦前この動阪の上には、
『ばら新』という有名な薔薇園があったんだ。おやじさんが戦時中に行方不明になって
いて、いまは跡かたもないけれど、鳩山首相なんかも苗をわけてももらっていた由緒の
ある店で、古い薔薇つくりなら誰でも知っている。・・・
 三軒茶屋目青不動の近くには、英国マックレディに作出した未来を代表する
青い薔薇が、今後も引き続き輸入されて花開こうとし、そのあたりには、まだこの先
とも放火が続けられてゆくだろう。」
 小説「虚無への供物」は、色にたいするこだわりがあって、それが不動と薔薇となる
のでありますが、この小説の舞台は1954年(昭和29年)の設定です。
この時代には、すでに青いバラが出来たというニュースが世界のバラ愛好家の間で
話題になっていたのがわかります。文中にある「鳩山首相」というのは、当代では
なくて、先代のことになりますが、この時代にバラというのは庶民のものではありま
せんでしたでしょう。

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)

新装版 虚無への供物(上) (講談社文庫)