学問の春 7

 山口昌男さんの「学問の春」を手にしているのですが、目にしているのは石塚純一
さんによる編集後記であったり、浅野卓夫さんによる「講義ノート」であったりで、
いつになったら講義そのものに目がいくのでありましょうか。
 この講義録が、このようにして刊行されるにいたったのは、山口昌男さんが札幌
大学に新しく設置された文化学部の学部長として講座をもったときから準備されて
いたものです。その中心人物が山口文庫(ラビリンス)のアリアドネである田中
(石塚)千恵子さんであります。
 ラビリンスとか山口文庫と記していますと、自然とねころんでは読むことのできない
山口昌男ラビリンス」に手が伸びるのでありました。

山口昌男ラビリンス

山口昌男ラビリンス

 この「山口昌男ラビリンス」の巻頭をかざっているのは、山口昌男さんにとっての
「思想のドラマツルギー」ともいうようなには、今福龍太さんとの対話です。
この対談が行われたのは2001年1月25日札幌大学展示スペース学長室です。
この対談(「アフリカを探して 二十五年の対話の涯に」)の対談の雰囲気をつたえる
アナウンスが、この対談にはついていました。
「 今福先生、ポータブルレコードプレーヤー、LP一枚、そしてブラジルのエシュ(
ナイジェリア・ヨルバ族起源のイタズラ神、占いの神でもある。)の像を手に登場。
それを見てすぐに山口先生も自分の部屋からエシュを持ってくる。
アフリカのエシュと新大陸のエシュが向かい合わせでテーブルの上に置かれた。
今福先生『面白いね。これを見ているだけでいかに大西洋を渡ったエシュが混血で
あるかがわかる」。
山口先生『守護神として』と言って、アンドレ・ブルトンの肖像写真を持ち込み。
聴衆ははじめ、文化学部の石塚氏、学生の佐藤、福島、勇崎。山口先生よりお菓子と
紅茶が振舞われる。
時間はあまり気にしないでやろうということではじめる。」
 この対話は、田中千恵子さんが編集の「山口文庫通信」に掲載されたものですが、
山口昌男さんと今福龍太さんの関わりは、山口文庫通信のおかげで、よりわかりやすく
後の時代に残ることになりました。
 このような対話にギャラリーとして参加できた学生たちは、実に幸せなことであると
うらやましくなりますが、この場には、当方の姪も同席していて、ほとんど歴史の証人
のようなことを演じていたのでありますが、その時は気がついてはいなかったことで
しょう。