疎開小説9

 カトレーン様に書き込みをいただいたなかに、「学童疎開については山中恒氏の
『ボクラ少国民』の中の第4巻『欲シガリマセン勝ツマデハ』に詳細に論じられて
います。」とありました。
 山中恒さんという文学者は、映画「転校生」の原作者ですが、ライフワークと
なったのは、戦時下の少国民について多面的に記録した「ボクラ少国民」です。
現代であれば、絶対に日の目をみることはないのではないかと思われる著作で、
井上光晴さんが主宰する雑誌「辺境」に連載され、この版元「辺境社」が刊行した
ものです。全5巻に補巻を加えたものは、そのボリュームに圧倒されます。
 80年ころに刊行されていた「ボクラ少国民」シリーズを、どうして購入することに
なったのか、まったく記憶に残っておりませんが、長編ものを読むのを苦にしていな
かったために、むこうみずにも買い続けたものと思われます。2冊くらいはなんとか
読んだのかもしれませんが、そのあとは文字通りの積んどくでありまして、もう何年も
手にしたことがありませんでした。
疎開小説」ということで駄文を綴っていても、山中恒さんのこのシリーズに思いが
至らなかったのはお恥ずかしいことですが、今回、書き込みをいただいたことで、
すぐに物置にしまってあったシリーズを取り出してきました。
 このシリーズの補巻の帯には、山中恒さんのあとがきの一部が引用されています。
「あの戦争は日本人にとってなんであったのか、あの強制された理不尽な体験は
何ものも残さず、跡形もなく消去されてしまったのか。戦争体験が体系的に思想化され、
組織され、骨肉化されなかったことを本当に口惜しく思う。同時代に生きてきたもの
として、それができなかった無力さを思い知らされる。私自身、いま組織による闘い
とは別に、改めて自立した個の闘い方をせっぱつまった思いで模索している。」
 山中恒さんは昭和6(31)年生まれで、パートナーの奥様はその一つ下で、ともに
昭和一桁で疎開世代といえるのかも知れません。