今回の岩波文庫版「久生十蘭短篇選」を編集しているのは、川崎賢子さんであり
ました。
川崎さんのデビュー作(?)は、「彼らの昭和」というもので、これは長谷川四兄弟に
ついてかかれたものでした。
長谷川兄弟をとりあげようとしたら、函館のむかしのことを調べなくてはいけない
ものでありまして、そこから久生十蘭までは、眼と鼻の先というかんじであります。
この「久生十蘭短篇選」の川崎さんの解説には、次のようにありますよ。
「さて世にジュウラニアンもしくはジュラニアンということばがある。これは選ばれた
幸福を少数者として久生十蘭の小説の美技に魅せられた読者をいうものであり、十蘭の
小説家としての抜群の技量を理解するにそれに応じた素養が読者にも要請されるという
自負を持って、読者としての高等派である。」
「ジュウラニアン」とは、だれが最初にいったのでありましょう。これはたぶん、
中井英夫さんなのでしょう。小生が一番最初にこのことばがをみたのは中井さんの
小説「虚無への供物」の作中においてであります。
- 作者: 中井英夫
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日本では珍しいシャンソン歌手といってもまだほんの駆け出しだから、奈々緋紗夫と
いう芸名も、まるで知られていない。本人も、あまり売り出す気はないらしく、ラジオ
ライターの仕事を本職にしているが、たまに水をむけるのがいても、自分には歌うたい
より、探偵の才能があると固く信じこんでいる。」
「氷沼家の陰惨な歴史を黙ってきいていた久生が、そろそろ用心ぶかく切り出した。
実際の推理力はさっぱりの癖に、たわいもないシャーロキアンで、ホームズの口真似を
しては喜んでいる (でなければジュウラニアンとでもいうが、久生の作中人物を理想と
するこのお嬢さんは、・・・)」
氷沼家は、中井英夫さんの家族の一部が投影されているようですが、中井さんの
ところのひいじいさんの奥様かには、函館出身のひとがいたっようで、洞爺丸台風で
犠牲になったり、函館大火に巻き込まれて、なくなっているということになっている
のでした。