神は細部に宿り給う4

 それでも山口昌男さんの「本の神話学」であります。
 この本の最終章は、「もう一つのルネサンス」となっていますが、この最後の
ところで、この本を締めるかのようにワールブルクが登場します。

「こんなたいした知られない人物の事績にどうしてこだわるのかと問われるかも
しれない。しかし、神話=象徴学、図像学ルネサンス精神史、知の探求の形式と
しての蒐集、世界の演劇、ユダヤ的知性、越境的知性等々の問題が囲繞していると
したら関心を寄せない方が難しいということになる。たしかに、ユダヤ的知の共同
体は、その完結性において、キリスト教を含む歴史的世界を<書物>中に先取りして、
孤立した世界を営みつづけた。それはいわば<知の隠れ里>ともいうべき性格を持ち
続けて来た。しかし15世紀と19世紀から20世紀の初頭にかけて、決定的な寄与を
行った。フロイトと比較すると遥かに目立たぬ存在であったが、アビ・ワールブルクは、
ワイマールの知的共同体を透かしてみるとき、その存在の持つ意味は、遥か東の涯に
旅立ちの旅装を整えている者のための量りしれない励みとなるのである。20世紀
後半の知的探求において、書物と書物を越える表現のメディアのせめぎ合いは、
いっそう中心的なテーマになるであろう。
 しかし、書物と反書物としての象徴及びイコンが、湧き出てくる源泉を訪ねてみる
ことは決して無駄なことではなかろうし、ルネサンスに終わるわれわれが焦点を
あてて来たいくつかのテーマは、絶えず、われわれに、それぞれが携わる知の探求の
領域の相違を越えて還帰することをすすめてやまぬ部分なのである。」
 
 これが、「もう一つのルネサンス」の結語となります。
 このあとに、文献目録がつくのですが、ここにあがっている本の数々のリストを
眺めるのが、なかなか刺激的なのでした。