精神の風通しのために

 昨日に記した「中村稔」さんがカストリ雑誌に小説を発表していたというのをみたの
は、日高普さんの「精神の風通しのために」創樹社 76年刊 であろうと思っており
ました。
世代、カストリ雑誌、吉行なんて連想からでありましたが、肝心の本が見つからない
ものですから、確認ができずでありました。ひさしぶりに押し入れの段ボール箱
はいっている本を探し出して、記憶に残っているページを探してみましたら、該当の
ところがなしで、あれっと思ったのです。
 この「精神の風通しのために」は、経済学者日高普さんが一般の読者むけに書いた
書評など、専門を離れた雑文を集めた本でありまして、このあと書評などをまとめた本
を継続して刊行するようになったということでも、記念すべき一冊です。これがなけれ
ば、小生が日高普さんの本を手にすることはずっとなかったはずです。日高さんは、
中村稔さんと親しく、この本の跋文は中村稔さんによるもので、その一節は帯にも引用
されています。
「 本書に収められた文章の多くは日高が浜田新一というペンネームで発表したもので
あり、私が日高と親しく往来していた時期の作品であり、それだけに私を往時への回想に
誘ってやまない。日高の表現によれば、『世代』は『目黒書店をお払い箱になった』と
いうことだが、それ以後の『世代』、つまり同人サロンから同人雑誌となっていった
時期の『世代』の中心は、疑いもなく日高普その人であった。
 その当時でも、矢牧一宏、吉行淳之介小川徹清岡卓行橋本一明、大野正男と
いった人々がいわば常連だったから、その誰が『世代』の会合の中心となっても、
ふしぎでないような絢爛たる才能の集まりであったわけだが、それでも日高が『世代』
の中心であったことを疑うものはないはずである。」
 この本は、もっと取り上げられてもいいのですが、そのわりでないのが、本当に
不思議であります。