本の狩人 2

 山口昌男さんの「本の狩人」は、単行本に未収録の文章をあつめたということで
ありますが、奇妙に読んだことがあるように思えるのは、似たようなことを書いて
いるのを見たことがあるからでしょうか。
 この本には、編集者である川村さんの懇切なメモがついておりまして、小生には、
これがとてもありがたいことです。
 川村メモには次のようにあります。
「 著者は塙嘉彦氏が亡くなったとき『ひと編集者に出会う 塙嘉彦氏を悼む』を、
 そして小苅米けん氏が亡くなったときには『小苅米けん氏の思いで』をそれぞれ
 執筆している。共に著作目録No.37に収録」
 著作目録が、当然のごとくついておりまして、これは84年にでた「文化と仕掛け」
に収録されていることがわかるのでした。

 「文芸」73年4月号に掲載された「カーニバル的世界像」という文章の書き出し
の小気味いいたんか、次のごとしです。

「 世の中には時々大げさな人がいるために、この一冊とか、今世紀最大の・・・と
いった、本についての賛辞が書き連ねられるのを興醒めしながらもつきあわされる
ことがある。しかし、にもかかわらず、ついそういう言い方をしたくなるような本に
出遭うことは、私のような本の虫にとっては、やはりかけがえのない楽しみの一つで
ある。クルチウスの『ヨーロッパ文学とラテン中世』に、アウエルバッハの『ミメー
シス』に出遭ったときがそうであった。これにバフーチンの本書を加えると、今世紀の
人間科学を語るのに、欠くことのできない三冊の文学を対象とした精神史が出揃うこと
になる。
 前二者がそれぞれみすず書房筑摩書房といった、20世紀の知性の歴史に参加する
姿勢充分の中堅出版社によって刊行されたのに続いて、バフチーンが、時々拙速の誹りを
免で得ないが、生き生きとした精神で本を製作することに精魂を傾けているせりか書房
ような弱小出版社によって、装幀、造本共に本書の内容にふさわしい最高の装いのもとに
刊行された。考えようによっては壮挙とも、あるいは分不相応とも、無謀ともいうことの
できる本書の出現をまず心からよろこびたい。」

 せりか書房は、山口昌男さんの「人類学的思考」を刊行したのですが、ここにも伝説の
編集者 久保覚さんがいました。山口さんと久保覚さんの関係でいくと、このバフチーン
の出版を後押ししたのも、山口さんであったのでしょうか。