小生の世代では、特に高校に入る前からミステリーが好きであったという人のほか、
中原弓彦さんのことを知っているは、ほとんどいなかったでしょうよ。60年代末の
ことですが、筆名で発表していた中原弓彦さんが、小林信彦さんとなって書いたものを
眼にするようになっても、この人は、小林泰彦さん(平凡パンチのイラストで超有名で
ありましたから)のお兄さんであったとのかと認識したくらいです。
小林泰彦さんのほうが、同世代には大きな存在であったといってもいいでしょう。
小生は、小林信彦さんの小説のあまり良い読者ではありませんでしたので、小生が
小林信彦さんの本を購入するようになったのは遅くて、新潮文庫にはいった「日本の
喜劇人」などがきっかけでありました。
その時には、小説家としては何冊かうれたものがあったはずですが、それもまったく
手にしていませんでした。
なぜに、このように小林信彦さんのものを遠ざけていたのかと考えると、これが実に
ばかばかしいことですが、江藤淳の文章を眼にしたからであります。
小生が眼にした江藤淳の文章は、冬樹社版「山川方夫全集」の解説でありますが、
何冊目のあったものかわかりませんが、これでは悪意をもって(と思えるほどいやに)
書かれているとしか思えないほど、中原弓彦さんはいやなやつに描かれています。
そのときは、山川方夫さんのことを読んでやろうと思って全集を購入し、その盟友で
ある江藤淳のことも信頼をしていたせいもありまして、中原とはとんでもないやつだと
いうふうに思っていたのでした。それが、山川方夫、早世した才能ゆたかな作家、
中原弓彦は山川の才能に嫉妬しているとしか思えない早稲田系の売れない作家と
いうような思いこみにつながったのでした。
いまでありましたら、もうすこし冷静に書かれた文章の背後にあるものを推し量る
ことができるようになっているかもしれません。しかし、そのときは、まだ21歳
くらいで単純でありましたからね。
この山川方夫全集の江藤淳による解説についてを、ブログでとりあげているひとが
いて、やはり、この文章はインパクトがあったかと思ったのですが、そのような文章に
ずいぶんとあとにいたるまで支配されて、 その著者の本を手にするに障害となったり
するのでした。
いまでは、江藤淳が書いた、この解説を読みたくないのでありました。