マリ・クレール 3

 雑誌「マリ・クレール」は、読書とか映画、音楽の特集が目玉のひとつであり
ましたが、毎月の書評欄も充実していたものです。
88年8月号では、今福龍太さんが「天使のおそれ」青土社刊を、中条省平さんが
ルクレジオ「海を見たことがなかった少年」を、そして飯島耕一さんが小林信彦
さんの「世間知らず」を評しているのでした。
 飯島耕一さんが小林信彦さんについて書く、短い文章であっても興味をひかれる
ことです。
「 わたしは小林信彦と同世代なので、50年代のはじめを舞台としたこの物語が
よくわかる。と同時に小林氏はわたしよりもずっとつよくアメリカにかかわり、
アメリカが好きなのだと思わせられた。
いまを去る30年前、小林信彦は当時の『映画評論』に、中原弓彦という名前で
アメリカ映画、とくにミュージカルや喜劇物について書いており、わたしは同じ
雑誌に、ヨーロッパ映画大島渚について書いていた。
 その頃の忘れられない映画に『ウエストサイド物語』があり、中原弓彦は絶賛
したが、あの大型ミュージカル映画になぜか反発したわたしはそれにかみついた
記憶がある。いまでこそ『ウエストサイド物語』など、ちっちゃなかわいらしい
映画にみえるが、当時はアメリカの巨大さを誇る超ど級の空母かなにかに思えた
のだ。」

 この書評のページが終わりますと連載の3回目ということで、武田百合子さんの
「日々雑記」がのっているのでした。その次のページは、吉本隆明「新・書物の
解体学」であります。こうしたぜいたくなページのつながりで構成されている
雑誌というのは、なかなか簡単にはできないことで、やはり編集者の力を感じて
しまします。