思いこみと偏見2

 小生が、最初に片岡義男さんとか小林信彦さんのことを知った頃は、まだ純文学と
いう言葉が大きな顔をしていた時でありましたので、一番上等なのは純文学の作家で、
その次ぎに純文学と大衆読み物の両方を書く人で、大衆文学だけであればそれよりも
格がおちて、今でいうところのコラムニストは新聞記者OB以外はほとんど居場所が
ないような感じでありました。
 小林信彦さんは純文学を志しているのだが良い作品を書くことができなくて、
編集の仕事をしている人、平凡パンチのイラストで有名な小林泰彦の兄というのが、
小生の第一印象(もちろん、小林信彦というよりも中原弓彦という名前でありま
した。)で、片岡義男さんは、テディ・片岡というペンネームで、学校にはもって
いくことができないような雑誌にコラムを書いているのでした。
 がちがちの純文学至上主義者には、ハワイの日系二世という感じのペンネームと
書かれている内容が、とっても当時の世相からは浮いていて、まったくうさんくさく
思われたのでした。このうさんくささは、野末陳平とかスクリーンで見る小沢昭一
キャラに共通するするものであったように思います。
 その後、テディ片岡さんは片岡義男さんに脱皮するのですが、なかなかこの変化に
ついていくことができませんでした。
 小生よりも年少の小西康陽さんは、次のように書いているのです。
「 ぼくは片岡義男の大ファンである。そのことを前提に、この文章を読んで下さい。
 ぼくが最初に片岡氏の文章を読んだのは、テディ片岡というペンネームで書かれた
 『意地悪な本』という新書版のシリーズだった。何冊かもっていたはずだ。
 KKベストセラーズから出版されていたその本は、大人向けのブラックユーモアや、
 パーティ向けのジョークをたくさん集めた内容で、当時小学生だったぼくが読んでも
 実に面白いものだった。」(「ぼくは片岡義男が大好き」より)

 小生は、小西さんより学年で8つ上になりますから、当時高校生くらいでしょうか。
小学生であれば背伸びして手にすることができたかもしれないKKベストセラーズ
新書は、自尊心がじゃまをして見ることもなかったのでした。小学生が、テディさんの
本を手にしているのも、またほとんど考えることのできないことです。
 先月から岩波書店「図書」に片岡さんは、「散歩して迷子になる」という連載を
もっていますが、デビューしたころのうさんくささを思うとまさに隔世の感あり
です。