本はりんご箱に

 本日に届いた岩波書店「図書」4月号をみておりましたら、高橋英夫さんの
「記憶と忘却の本読み」という文章がありました。この文章の中に本とりんご箱と
いうことばがでてきます。
「 本などは長いあいだには自然になくなるものであると思えばいいのだろうか。
私の母がふだんはものをためこむ方なのに、時々大片づけをやっていたから、その
せいかもしれない。しかし何よりも私自身がりんご箱一杯に詰めこんだ子供のころ
の本・雑誌を古本屋さんに来てもらった記憶がある。」
 ダンボール箱なんて便利なものがなかった時代には、家庭において保存につかう
箱は、衣装などは茶箱を活用していましたし、食器などは新聞紙にくるん木のりんご
箱にいれていました。茶箱なんて、ずいぶん貴重品のように扱われていて、定期的に
引っ越しを行う家庭には、何個かありましたでしょう。同様に木でできたりんご箱も
家庭にはいくつかありました。( 60年代には、生産地からトラックにりんご箱に
りんごと緩衝おがくをつめて、生産地から直接に販売にきたものです。りんごを
食べ終わったあとは、木の箱は保存箱としてつかわれました。)
 小生が学生のころ(70年から4年間ですが)、6畳一間の学生下宿でしたが、
部屋には押入がなくて、つくりつけのベッドがあって、あとは机をおくか、こたつを
おいているかでした。スチール製の組立本棚がではじめたところで、本をそこそこ
もっている人は、このスチール本棚が必需品でありました。もっとたくさん本を
もっている人は、狭い部屋でどうしていたかというと、りんご箱を積み重ねていた
のでありました。このりんご箱は、近所の果物やなどでわけてもらったか(無断での
ほうが多かったのかな。)、同じサイズでありますから、システム家具のような
趣でありまして、合理的に思えたものです。
 同じ下宿の大学院生が卒業して下宿をでていった時に、本棚かわりに使って
いたりんご箱を捨てていきましたが、小生は、その箱をひろってきて、その後長らく
使うことになったのでした。天井近くまで積み上げてもおさまりが良くて、貧乏学生
にはすぐれた道具でありました。
 これにびっしりと本を詰めますと重くなりすぎるのが問題となるのですが、本の
保存箱としてはダンボールのみかん箱が一般的になるまで重宝したのでした。
小生も、何度か家移りをしましたが、一回ごとに木のりんご箱は処分されて、現在は
たぶんほとんど残っていないだろうと思います。
 いまでも、りんごの箱売りをしているような店では、木のりんご箱を見かけますが、
最近は、あの箱をみましても、これがあったら本の整理ができるのにとは思わなく
なりました。