バスにのって

 京都の町を歩くときは、市バスの一日券を買って、あちらこちらとバスに
のって動くのが楽しいことです。京都は、中通りが狭いせいもあって、バスに
のって動くように、まちが作られているように思います。特に、均一区間
大きいので、500円の乗り放題券を利用すれば、一日でも楽しめそうです。
長い区間を走るバスは、ほとんどがそのむかし市電がはしっていた路線をバスに
転換したものであります。そうしたバスにのると、むかし、ここを市電が
走っていたなと思い出すのでありました。均一区間バスで、長い距離を走るのは、
もと市電の路線であるというのは、東京でもおなじでありまして、晴海から
新宿なんてほとんどまちめぐりのためにあるようなバス路線も、市電路線の
転換したものでした。たしか、井上ひさしさんの小説に、このような路線バスに
のって時間を費やす人のことをかいたものがありました。
 「バスにのって」というのは、田中小実昌さんの本のタイトルでありまして、
今回の京都旅行でいった恵文社一乗寺店で、みつけて旅行記念に購入をした
ものであります。田中さんの「バスにのって」はけっこうタイトルはよくきく
のでありますが、これが現物にはあまりおめにかかりません。青土社が版元と
いうのも、この内容からすると意外な感じです。(「ユリイカ」に連載されて
いたものですから、意外でもなんでもなしです。)
 本のタイトルになっている「バスにのって」は、日大医学部板橋病院へ
糖尿病の治療のインスリン注射をもらいに、自宅から地下鉄とバスに乗りついで
いく話ですが、そのときに利用する国際興業のバス車体にかかれているKKKの
文字から国際興業のバスが走っている路線のことになって、成増から蕨へと
移動する話に展開していきます。どこを見ても、蕨へといくバスにのる目的が
かかれていませんので、バスにのるのが目的とか思えません。
「成増ー蕨のバスは本数がすくない。だから地下鉄有楽町線営団成増にいき、
東武東上線成増駅まで、ほんの二分ぐらいだがあるいて、東上線成増駅
つきぬけると、蕨行きのバスがあれば、のる。一時間に一本くらいのこともあり、
蕨行きのバスがなかなかこないようだと、赤羽行きにのる。・・・
 蕨の町には、甘納豆の大きな店がある。これは関東ではめずらしい。ぼくは
広島県のもと軍港町呉でそだったが、関西、中国地方では納豆といえば、
甘納豆だった。しかし、呉はニホンでもいちばんおおきな軍港で、海軍におさ
めるため関東ふうの納豆をつくっている豆やがあった。」
 京浜東北線蕨駅は、一年だけ通勤に利用した駅でした。国際興業というと
進駐軍のための運送事業をしていた会社というような理解をしておりました。
その会社を、日本の黒幕のひとりといわれた人が支配していたというのも、
不思議な感じがすることです。