諫早つながり

 諫早とききますと、最近では高校女子駅伝のチームが有名でありますが、
その諫早高校出身者には、小生好みの文学関係者がいるのでありました。
 それは、野呂邦暢(小説家)であり、市川森一でした。(一番の大物は、
伊東静雄であるのでしょう。)

 シナリオ作家である市川森一は、いまから20年前に諫早を舞台にしたドラマ
「親戚たち」というのを発表しています。作品としての知名度では、彼の代表作
淋しいのはお前だけじゃない」にはるか及ばないのですが、有明海の埋め立て
地にレジャー施設を建設するというようなバブル時代を背景に、推進派や反対派
の人間模様を描く物ですが、諫早出身のブローカー役の根津甚八が、伊東静雄
がたスキーということばがでてくる詩を口ずさめば、反対はである地元の自然
保護派の医師 篠田三郎野呂邦暢「鳥たちの河口」(集英社文庫)を手に、
干潟の保存を熱く語るのでありました。
 市川森一のふるさとへの思いが詰まった連続ドラマでした。
 これなどを見ると、一度諫早へといってみたいと思いながら、いまだにその機会
がありません。

 野呂邦暢さんには、「小さな町にて」というエッセイ集があります。野呂さんが
42歳で亡くなって、2年後にでたものですが、この小さな町というのは、亡く
なったときに住んでいた諫早のことです。
「私は旅行をしたらその土地の記念に本を買うことにしている。
 ( 略 )
 鹿児島港から船がでるまで、私は町の古本屋で時間をつぶした。掘出物をしよう
などという気は初めからない。地方の古本屋に東京より安くてこれは思う本がある
のは昔話になってしまった、ということを心得ていても私の場合、時間を過ごすのは
古本屋しかない。
ぼんやりと色褪せた文庫本の棚を眺めていると、一冊の岩波文庫が目にとまった。
フィリップの小さき町にてである。売値は百円だった。
私は、これを買った。実はこの小文のタイトルはフィリップの著書からとっているのだ。」

 先年にみすず大人の本棚に「愛についてのデッサン」がはいって、やっと普通に
買える野呂邦暢の本がでました。最近は、ずいぶんとファンが増えているようなのに、
野呂作品が手軽に読むことができないのは残念であります。
 文春新書に「それぞれの芥川賞 直木賞豊田健次著というのがありまして、芥川賞
受賞作を書くにいたるまでの、野呂邦暢とのやりとりがかかれています。
この豊田さんは、文春の編集者でありましたが、野呂邦暢はずいぶんと印象にのこる人で
あったのでしょう。
 95年5月7日という奥付をもった「野呂邦暢作品集」が、没後15周年で刊行され、
たぶん豊田さんの編集と思われますが、これはこのあと野呂全集が企画されるまでの
つなぎ役というような感じの一冊になっています。重要な作品は、ひととおりおさまって
おり、野呂ファン必携となっています。

 古本でさがせば入手はできるとはいうものの、野呂作品がもうすこし入手できるように
ならないものかと思うのでした。