ソロモンの歌

 拙ブログで「ソロモンの歌」といえば、吉田秀和さんのエッセイ集となります。
 ずいぶんと昔に元版を購入したのですが、収録の文章で難しいものはいまだに読め
ていないのものの、とにかく吉田秀和さんのものでは一番好きなものです。

 この時期に「ソロモンの歌」といえば、それは相撲が話題となっているからですね。
 吉田秀和さんが子どものころの思い出から話は始まります。
「私の幼かったころは、新和泉町の家でも、それから蛎殻町に移ってからでも、一月と
五月になると、両国の川向うにある国技館の櫓太鼓の音がきこえてきていた。朝風を
きって渡ってくる音は、大相撲がはじまり、今日もその取組があるという知らせだった。
あの音は夜明けの何時に始まるものだったか。とにかく一月の春場所を知らせる音は、
五月の夏場所の音でさえ、私たち兄弟が寝ている部屋が真暗なうちにひびいてきた。
私は床の中でその音をきくのが好きだった。あの音は、本当に爽やかな響きと活気に
みちた楽天的なリズムを持っている。今もそうだし、あのころもそうだった。」
 大正2(1913)年生まれの吉田さんが幼かったころですから、これは関東大震災前後
のことでしょうか。今が戦後70年というのにならえば、吉田さんが幼かったころは、
御一新から60年もたっていないということになりです。「明治の東京計画」は着々と
進行していますが、いまだ東京の下町には江戸の情緒が色濃く残っていたことであり
ましょう。「まだTVもラジオもなかった時代」であります。
 「ソロモンの歌」を読んでみたくなったのは、もちろん五月となって相撲の本場所
が行われているからでありますね。当方はひいきの力士がいるせいもありまして、BS
放送で相撲中継が始まるとTVを見るようになっています。(そして、またBS放送でし
か見られない力士たちの取り組みをみるのがたのしみなのですね。)
 大相撲の中継を見ていましたら、相撲協会の理事長が、国技館に一歩足を踏み入れ
れば、そこは江戸といっていました。いまどき頭にまげを結って、締め込み一つで
勝負するなんて、アナクロの極致でありますが、この時期の朝早くに両国界隈を散歩
すれば、吉田秀和さんが幼いころに耳にしたのとおなじ音を聞くことができるので
しょう。