世間の人 2

 鬼海弘雄さんの「世間のひと」(ちくま文庫)には、「はじめに」という短文が
あります。そこに、この本のなりたちが記されています。
「ひとに興味をもち、もう少し好きになれればと思っている。
 写真をはじめたときから、市井のひとたちをそれぞれの王のように威厳のある肖像
に撮りたいと願ってきた。
『世間のひと』は、一九七三年から二〇一三年まで浅草で出会った王たちの群像だ。
文庫本にまとめるにあたり写真集という体裁にはこだわらず、粗いネガ帳のように
綴った。時間だけをかけてきたので、時代の影を記録しているかもしれない。
 有用な情報とは無縁だが、どこか『あなたに似た人』のポートレイトは、なにより、
あなたの想像力だけを頼りにしている。」

世間のひと (ちくま文庫)

世間のひと (ちくま文庫)

 この文庫の帯には、「強烈な存在感をはなつ『世間のひと』たちの肖像」とある
のですが、この表紙カバーに採用されている写真には「笑うおばあちゃん」とあって
あまり強烈な印象は受けないことであります。あまり強烈な写真を使いますと、それ
こそ引いてしまって手に取るのがためらわれてしまうかもしれませんので、表紙とし
てはこのくらいでいいのかもしれません。
 この表紙カバーの写真の下には、「ひとり独りが、王。」という帯の文字があるの
ですが、この笑うおばあちゃんのどこが王なのかと不思議に思って手にしてしまえば、
それが鬼海島(鬼海ワールド)への入り口なのであります。