従軍日記 4

 著名な作家たちが従軍するというのは、最近に話題になった戦場ジャーナリスト
とはまったく違った取材活動ですね。戦場ジャーナリストたちは、どちらかというと
反政府勢力のサイドで同行取材するようでありますが、これはほとんど前線取材で
危険きわまりないものです。
 従軍作家というのは戦時下の日本にあっては、軍と関係の深い雑誌等から派遣さ
れるか、それでなければ直接軍に雇われる形となるもののようです。これは軍に
対して協力的な関係にある作家から選ばれるようであります。当然のことながら、
久生十蘭さんは「戦時体制に対し充分協力的な姿勢をとっていたように見え、報道
班員として徴用するに適した人材と見なされても不思議はない。」と解題にありま
した。
 久生さんは徴用されたと思われるのですが、具体的にどの部署が雇い上げをした
のかが判然としないようです。それでも、久生さんの従軍生活は、軍属(といって
いいのでしょう。)としてけっこうな待遇であったようです。
「十蘭は旅費は出張手当のほかに、月給百五十円を受けている。この点に限ってい
えば奏任官四等=各科大尉(一級)に近い待遇といえるが、いずれにせよ少なくと
も奏任官待遇ではあるようだ。・・・従軍報道班員らの待遇は学歴によって分けら
れ、中学校以下だとあまり条件のよくない判任官待遇を、専門学校卒業以上だと
格段に条件のよい奏任官待遇を受けた。十蘭の最終学歴は聖学院中学校中退という
のが定説だが、・・明治大学講師などの令歴を有し、作家として活躍する傍ら国防
文芸連盟常任委員兼評議員大政翼賛会文化部嘱託などを務めていた十蘭は、この
ために奏任官待遇を受けていたのではないかと考えられる。」
 このような位置づけであるわけですから、各地で「饗応や送迎」を受けたという
のも納得できます。