異化する空間 3

 今回の旅のお目当てはバラ展とセザンヌ展でありましたが、セザンヌ展は期待が大き
かった分、すこし物足りないものを感じました。どのようなものが出品されているかも
知らずにいっていたのですが、過去にはもっと良い作品を見たような記憶があるので
すが、これは記憶違いでしょうか。( 風景、静物、人物などのジャンルで、それなり
に作品はそろっているのですが、こちらが贅沢になっているようです。)
 そんなことで口直しのために、新国立美術館の近くにある根津美術館へと足を伸ばし
ました。先日の朝日新聞(5月9日)でも取り上げられていた展示であります。
高階秀爾さんは、次のように書いてます。
根津美術館の「燕子花図屏風」は、毎年この花の季節に同館で公開されるのが恒例だ
が、今年は特にニューヨークのメトロポリタン美術館所蔵の『八橋図屏風」が招来されて
会場を飾っている。両者は100年ぶりの再会とのことで、稀に見る美の饗宴と言ってよい
だろう。」
 尾形光琳の大がかりな屏風絵が二つ揃うのは百年ぶりのことというと、これは皆既日食
よりも稀なことです。
 燕子花(かきつばた)・八つ橋と聞いても、特になんの感慨も催さないのですが、この
作品が描かれた時代のインテリさんにとって、この絵の背後にあるものは、すぐに思い
あたるのでありました。
 再び高階さんの文章からです。
「作者光琳も当時の観客も、その花の背後に東下りの途次の業平の姿を思い浮かべていた
こともまた確かである。業平の『かきつばた』の歌が、それにまつわるエピソードととも
に広く知られていたという事実に加えて、光琳自身・・花と橋、それもきわめて特異な
形状の八橋を取り合わせた作品をいくつも残しているのである。『かきつばた』に
『八橋』と来れば、これはどうしても『伊勢物語』ということになる。」
 「伊勢物語」というと、高校の古典教科書に取り上げられていましたが、ここでの教材
は、東下りでありまして、そのおかげで「かきつばた」の歌は、いまも口をついてでる
ようになっています。
 
 根津美術館は、東武鉄道の社長であった方の私邸あとにつくられていますが、実業家で
茶人ということからは藤田美術館を残した藤田傳三郎さんと同じであります。
お茶を通して客をもてなすための茶道具と仕掛けがあちこちにいっぱいであります。
庭もそうですが、この時期は庭の池には「かきつばた」の花で、展示館には「屏風絵」で
あります。
 そうして東武鉄道での一番の話題は、なんといっても業平橋あたりに建築された施設で
ありました。