小沢信男さんの文中に引用されている高田浪吉さんの震災関連の短歌を記すことに
いたします。
人々のせむすべ知らに渡りゆく橋の上より火は燃ゆるなり
母うへよ火なかにありて病める娘をいたはりかねてともに死にけむ
人ごゑも絶えはてにけり家焼くる炎のなかに日は沈みつつ
目に見ゆるものみな火なり川にゐて暁まちかぬるわがこころかな
焼原に重なり死ぬる人を見て泣き悲しまむ声も起らず
妻や子に似たるすがたと思へばか父は手づから水をそそぎぬ
うづ高きお骨見つつ香煙の漂ふなかに泪落ちたり
焼跡に焚火をしつつ遊ぶ子らこの町うらも年暮れにけり
焼跡に人住みかはる寂しさよわが家も成りて年を迎へぬ