「書生と車夫の東京」の最後となる第4章は、「ルパン・オブ・ジャパン」と題されて、
「大東京怪盗紳士録」と「近代日本殺人紳士淑女録・抄」からなります。
犯罪ものについては、すでにまとめて紹介をしていますが、これらの文章は、「定本
犯罪紳士録」にも収録はされていません。
ここに収録の「大東京怪盗紳士録」などは、より稗史にちかいものであります。
「花のお江戸が、東京と野暮ったく改まってから百二十年。この間の、鼠小僧の後輩た
ち、いうなら和製ルパンたちの系譜を、ずうっと今日まで辿ってみたらどうであろうか、
というのがこの小文の意図である。」
これに続いて、「明治の大盗ベストファイブ」というのがあがっていますが、その
ラインナップは、「生首正太郎、五寸釘寅吉。マムシのお銀、ピストル強盗清水定吉、
稲妻強盗・・このへんがベストファイブであるらしい。」というものです。
「いずれも、ものものしい名前だ。だが、そのご尊名も、今日ではもうなじみがない。
石川五右衛門や鼠小僧次朗吉などより、時代的にはずっと近いのに、この忘れられ方の
早さはどうだろう。」とあります。
石川五右衛門とか鼠小僧などは、芝居などになったことで、後世にも名前が残っている
ように思います。明治の大盗のうち、当方の記憶に残っているのは、「五寸釘寅吉」くら
いでありまして、これは「北海道樺戸集治監」などから脱走を図って、そのときに足に
五寸釘がささったまま逃亡したという伝説が聞こえていたからであります。
最近は、国内の刑務所などからの脱走というのは聞かなくなりましたが、当方のこども
のころは、比較的近くに刑務所とか少年院というのがあり、そこからの脱走話は、けっ
こうあって、警察などが捜索しているものの見つからず、自宅の近くに潜んでいるのでは
ないかと、なんとなく安眠できない日を過ごしたものです。
五寸釘寅吉さんは、どのような犯罪をおこしたひとであったのでしょう。