続「湯川共和国」 10

 伊東康雄さんの「夢のあとで」から、湯川さんと静岡とのつながりのところを、
さらに引用です。
 学校を終えた伊東さんは、ふるさと静岡に戻るのですが、そこでの出会いからです。
「 現代豆本館の小笠原淳さんの知遇を得、その縁で小川国夫さんを紹介された。
小川家を訪ねると、『心臓』という限定二百二十六部の本を見せてくださった。
一冊を小川さんに頼んで譲ってもらった。・・・版元である湯川書房の主人は、証券
会社に勤務しながら出版をしている、と小川さんが言った。それを聞いて不図、
『この本はどこかで見たのと同じ匂いだな』と、山田書店(『北の岬』が陳列されて
た)のウィンドウを思いだした。・・・
 小笠原淳さんが、藤枝市の自宅脇に、内向の世代の作家を中心とした現代文学者の
著作を展示する先駆文学館を建て、オープニングには、藤枝静男、小川国夫、古井
由吉、佐江衆一達を招待。全国から著名な愛書家達も集まり、その中に、湯川成一
がいたのだ。
 小笠原さんが、手招きをして湯川を紹介してくれた。」
 伊東康雄さんは、学生をしていた東京時代に、湯川書房の処女出版である「北の岬」
を目にするのですが、これは学生には分不相応といわれて、売ってもらうことができ
ずに、故郷へと帰り、まずは、豆本館主人と親しくなり、さらにその紹介で小川国夫
さんにつながるのでした。
 この伊東さんは、神奈川豆本から「辻邦生の本」というのを刊行しているのです
から、やはり伊東さんにとっても辻邦生さんは、特別な存在であるのでしょう。