- 作者: ヘリック,森亮
- 出版社/メーカー: 岩波書店
- 発売日: 2007/12/14
- メディア: 文庫
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ひさしぶりに新刊本屋へといきましたら、岩波文庫の新刊が目にはいり
ました。もともとは、松田道雄さんの「育児の百科 上」を手にしてみようと
思っていったのですが、そのとなりにあったのが「ヘリック詩抄」です。
「ヘリック」なんて詩人のことは、まったく知らなかったのでありますが、
森亮さんが翻訳したものが文庫本になったとあれば、購入しないわけには
いかないのです。
今回の文庫化で、なによりもよろしいのは付録ということで、50ページに
わたって森亮さんの翻訳についての5つの文章が掲載されていることです。
このようにしたのは、文庫編集部の考え方なのでしょう。編者などを採用せず
とも、このようなオリジナルな文庫が編まれたことが素晴らしい。
森さんの詩の翻訳論は「夢なればこそ」(文華書院 76年)に収められて
いますが、この本は、入手困難なものですから、一部であっても、こうして
読めるのはありがたいことだと思います。
この付録の冒頭におかれているのは「訳詩雑感」という(朝日新聞64年)
文章ですが、それでは、訳詩するにあたってのことを、次のように書いて
います。
「 私の訳詩が量的に振るわないのは一つには訳詩に対する私の考え方から
来ている。訳詩は外国の詩の単なる訳文ではいけない。訳した物が詩になって
いなければならぬ。至極当然のことのように聞こえるかも知れないが、いざ
実地にやってみると、これが非常にむつかしい。二十行の詩も試験の答案の
つもりで訳せば、半時間もあれば訳せるだろう。しかしいくら行をわけても
詩らしく見せかけたところで、結局それは訳文にすぎない。・・・・
訳詩がそのまま詩として通用するためには、ある程度の意訳は常に必要で
ある。時には意訳の限界を越えそうな言い換えや加筆や省略をあえてして、
はじめて訳詩が生きてくることもある。」
ヘリックの訳詩の実際は、以下のとおりです。
「 死者のために歌へ
死者たちのために泣いてくだされ、
皆うつし世の光に背いて逝った人だから。
わたしのために泣いてくだされ、
果てしらぬ夜にまぎれこんだこの身ゆえ
わたしを悼み、わたしを憶うて
金石に刻む詩を作ってくだされ、
いくたりかの友や近しい人の死に逢うて
弔う心をこれでも歌ったわたしだから。 」