えらく寒い

 最低気温は、そんなに低くないのでありますが、日中の気温があがらず、しかも
風があって、雪がちらつくとほとんど冬に戻ったような一日でありました。
せっかく咲いていたクロッカスも、本日は花を閉じたままです。
 寒いと暖房のあるところから離れることができません。すこしやらなくてはいけ
ないこともありますのに、ほとんど手につかずでありました。 
 読んでいたのは里見とんの「安城家の兄弟」であります。「兄弟」といっても、
ここまでのところ主人公の兄弟は登場せず、小説家とそのなじみの芸者、幇間などが
登場して、不思議な関係を展開するもの。それにしても、こういう時代とくらべると
最近は、有名人の女性関係に関しては世知辛いことでありますね。もっとも、当時は
女性の社会的な地位はひどく低かったのでありますからして。
 こういう作品は、これが発表された時代にあって、どのように受け入れられたので
ありましょうね。このような作品を読む読者というのは、今よりも限られていたと
思うのですが、ほんとうに不思議な小説であります。以前に「極楽とんぼ」を読んだ
時には、こんなに不思議には思わなかったのですが。
 本日に読んでいたところにあったくだり。
「熱海でも、お民の寝床はすぐ近くにあった。昌造は、なんの拘泥るところなく、平
気で瑛龍の床にはいり、そしてまた、例によって、夜が明けるまで喋りつづけた。
 前の日の夕方一旦あがったのが、また夜中にでも降り出したか、翌日、高い三階か
ら見晴らす雪景色はなかなかよかった。昌造は、眺めながらゆっくり喫した巻莨を、
何気なく庇に捨てて、その吸い口が、紅に染ってゐることに気がついた。
あんまり出来すぎてゐて、却って身についた感じは薄く、すぐそれを他人の上に移し
て、小説の筋など考へられるやうなものだった。」
 なんともまあでありますよ。