仕事帰りに 2

 昨日の仕事帰りに買ったのは、木下順二「あの過ぎ去った日々」でありました。
著名な劇作家でありますが、当方は木下順二さんの芝居にはほとんど縁がなく、これ
まで手にした木下さんの本は、いくつもありません。
 「あの過ぎ去った日々」は、「戦後から1960年代半ばへかけて、自分と自分を取り
巻いていた世界についての部分的回想ということに落ちついてしまった。時期的には
前に書いた『本郷』の少し飛んだ後ということになる。」とあります。
 戦後について書いた本ではありますが、プロローグとしておかれているのは、1940年
3月にあった「軍隊への入営の日」のことでありました。「熊本騎兵第六連隊の栄門を、
大勢の”壮丁”の一人として潜った」とのことですが、「騎兵」というのは木下さんが
五高馬術部の大将をしていたからだったですが、帝国大学をでていても幹部候補には
ならず、普通の兵隊としての入営となっています。
 徴兵検査というのが当時はあったのですが、徴兵検査には、身体検査のほか、学力
検査(修身及公民科)もあったとあります。木下さんは、この学力検査の問題を紹介
しています。当方は、こういう学力検査が行われていたということをはじめてしりま
した。
 ちなみに問題は、次の10題ですが、現代の人に、これは難問でありますね。
1 左の地名中皇軍の占拠せる地名に○をつけなさい。
2 左のもののうち肥料の三要素をなしているものに○をつけなさい。
  「 鉄、硫黄、窒素、燐、カリウム 」
3 今年は神武紀元何年ですか。
4 左の御製は何天皇の御製ですか。何天皇と書きなさい。
  国を思ふ道に二つはなかりけりいくさの庭に立つも立たぬも
5 我国全版図の人口は凡そ何人ですか。
6 選挙権は何歳になったらあたへられますか。
7 赤化思想とは何ですか。
8 国際連盟に入っていない強国を三つあげなさい。
9 教育に関する勅語の発布されたのはいつですか。
10 あまつひつぎとは何ですか。
 徴兵検査でありますから、高等教育を受けていない当時の小学校を卒業した青年
たちにとっても答える事ができる問題であったのでしょう。
 木下さんが試験を受けてから70余年が経過をしていますが、1940年当時に、この
問題の正解とはなんであったのでしょう。
 戦前の教育と敗戦後のそれには、大きな溝があるといわれていますが、戦後教育で
も教えられているのは、せいぜい問2、5、6くらいではないでしょうか。
あまつひつぎ(木下さんの本では漢字で表記)なんて、ほとんど普段は耳にすること
もありません。