師走の話題 13

「加藤が詩歌を詠むのは、この四つの時期にほぼ限定され、この四つの時期を除いて、
詩歌を詠むことはほとんどない。」
 「相聞の詩歌を詠むとき」のなかで、鷲巣さんは、このようにいっていっています。
四つの時期というのは、次のようになります
「第一の時期は、戦前から戦中にかけての数年間である。この時期の代表作に、妹に
対する愛を詠んだ『妹に』三編がある。
 第二の時期は、敗戦直後である。ほぼ1947年から1948年に集中する。1946年に加藤
は、母親が勤めた女性と結婚する。
 第三の時期は、フランス留学中である。オーストリアの女性、ヒルダ・シュタイン
メッツへの愛が詠まれる。
 第四の時期は1970年代の前半である。このころに矢島翠との出会いがある。以後、
お互いに支え、支えられる日々が三十年以上続くことになる。」
 これの時期に詠まれた詩歌の多くが「薔薇譜」に採られたということですから、
「薔薇譜」というのは、思いを寄せた女性に捧げられた詩歌をまとめたものということ
になります。もともと「薔薇譜」は私家版の「歌集」と「詩集」をあわせた廉価版と
いうことですから、「私家版」こそ、加藤周一さんから矢島翠さんに捧げられた刊本で
あるのでしょう。
 湯川書房 湯川成一さんが制作した時に、そのような背景をどのくらいご存知であった
のでしょうか。