師走の話題 14

 加藤周一さんが詩歌をつくられた四つの時期とありましたが、そのうちの三つは生活
をともにしていた女性への相聞歌を作っていたのであります。残り一つの時期も生活を
ともにするということでは共通であるのですが、相手は妹さんであるとのことです。
 鷲巣さんは、次のように記しています。
「加藤が『初恋』を経験したのはいつのことだろうか。あるいは『羊の歌』に描かれる
同僚の看護婦かもしれない。あるいは『妹』かもしれない、と私は考える。妹にたいする
愛は生涯を通じて変わらなかったが、少年期あるいは青年期の加藤は、妹にたいしてかぎ
りなく『恋』に近い感情を抱いていたのではなかろうか。」
「羊の歌」のなかにも、妹と暮らした夏の避暑地でのくだりがあるのですが、上の文章
に続いて、そこが引用されていました。
加藤さんには、「妹に」という詩があって、これは「薔薇譜」に掲載されています。
この詩を見てみようとおもいましたが、残念、すぐに湯川書房刊の「薔薇譜」はでてきま
せん。年の暮れのこの時期に、本を探している余裕がありませんので、詩の紹介は割愛で
あります。
 しかし、それにしても加藤さんの妹さんへの思いの強さであります。
 加藤周一さん晩年の最大のミステリーはカトリシズムへの入信でありますが、鷲巣さん
は、これも「妹への愛」によるものといっています。
カトリシズム入信について、パートナーの矢島さんは、「読者への裏切り」といって猛
反対したとあります。それをおしての入信ですから、「矢島の喪失感は大きかった。この
喪失感から立ちなおることはついにできなかった。」と記されています。
 とらえようによっては、キリストを信じるいうよりも、キリスト教を信じる家族を信じ
るということのようにも思います。
晩年までの30年にもわたって生活をともにした矢島さんにとって、それがショックで
ないわけがありません。
 この妹さんの息子さんが著作権継承者であります。