師走の話題 12

 鷲巣力さんの「『加藤周一』という生き方」からであります。鷲巣さんが、これまで
発表した文章と未発表の文章を集めたものですが、発表したものとはいっても、これに
収録されている「いかにして『加藤周一』は加藤周一になったか」は、もとはちくま文庫
「『羊の歌』余聞」の解説をベースとしているのですが、これを「大幅に加筆訂正」を
しておりまして、読後の感じがまるで違います。特には「『加藤周一』という生き方」の
146Pから148Pをご覧下さいです。

「加藤周一」という生き方 (筑摩選書)

「加藤周一」という生き方 (筑摩選書)

 この本を走り読みしているのですが、まずはこの「いかにして」の文章で初めて知る
事実に驚きました。加藤周一という人に対する印象もかわるように思いますが、それは
彼にとってマイナスになるのでしょうか。
 もう一つは「相聞の詩歌を詠むとき」であります。こちらの文章は「書き下ろし」です
が、加藤周一さんの結婚相手との恋愛中に作られた詩歌について、未発表の資料とか妹さ
んなどからの聞き取りなどで解き明かしていくものです。こちらも驚きの連続であります。
そういう背景があったのかというのが、小説集「幻想薔薇都市」についてでありますが、
これが「矢島翠さんに触発されて書かれ、矢島さんに捧げられた小説集」であるなんて、
最初に購入した時には、思ってもみなかった。なかんずく加藤周一さんの代表的な
短編でもある「花の降る夜のなかで」に込められた加藤さんの思いであります。
 この作品が有名になったのは、朝日新聞文芸時評丸谷才一さんが賞賛したからであり
ます。鷲巣さんが書いている、この作品の背景について、発表時点でわかっていた人と
いうのはどのくらいいたのでありましょう。