鶴見俊輔さんの本を取り上げているうちに、吉田健一さんのほうへ話題がいきそうに
なっていました。吉田健一さんには「交友録」という著作があって、これには例外的に
自分の父親について記していたのを思いだしました。それにしても、吉田健一さんは
「華麗なる一族」というのがぴったりでありますね。幕末から明治維新にかけてのこと
は、大河ドラマにもよく取り上げられるのですが、薩長土肥の出身者は、それに自分の
先祖たち(有名、無名に関わらず)がでてくるので好んで見るようです。当方は、そう
いう歴史の流れからははるかに遠くでありまして、ほとんど別の国の歴史夜話を聞くが
ごとしでありました。
そういえば、白洲正子さんの自伝のカバーには、軍服姿の祖父と一緒の写真がありま
したですね。「華麗な一族」のことを思い浮かべていましたら、「三代の系譜」という
阪谷芳直さんの本(元版はみすず書房)があったことを思いだしました。
- 作者: 阪谷芳直
- 出版社/メーカー: 洋泉社
- 発売日: 2007/03
- メディア: 単行本
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この本の表紙カバーは画家 須田剋太さんの絵で飾られています。なかにも扉絵と書
にも須田さんのものがありです。普通でありましたら、あとがきで言及されていたり
するのですが、この本には書き下ろしということで「須田剋太の面影」という文章が
収録されていて、そこでわけが書かれていました。
(この文章は、編集工房ノア「海鳴り」23号に掲載が初出であるようです。「海鳴り」
23号は7月中旬には配布が始まっているようですが、それから後になって「象のいない
動物園」が刊行となっています。)
画家 須田剋太さんは、司馬遼太郎さんの「街道をゆく」の挿絵をかいておられた
画家さんです。そう記しますと挿絵が浮かんでくる方もおられることでしょう。
鶴見俊輔さんによる「須田剋太の面影」からの引用です。
「須田さんに迷惑をかけたことがある。
須田さんは、私が飯沼二郎さんから『朝鮮人』という雑誌をひきついだあと、毎号
その表紙をかいておくられた。無料である。
お礼の方法はむずかしい。
・・・・
須田さんは、私の前に、司馬遼太郎の『街道をゆく』の挿画をかく人としてあらわれ
た。
日本に住む朝鮮人に対して差別をすることに反対の運動をおこした飯沼二郎を信頼し、
その雑誌のあとつぎをする私に共感をもつ。このひとつのことが、須田さんを私に結び
つけた。」
鶴見さんは、この文章を「須田さんは、この日本で生きるひとりの仙人だった。」と
むすんでいます。日頃から「朝鮮人」という雑誌に表紙絵を描いてもらったことにお礼
に、会食に招くと、自分の作品を携えてきて、同席の人にプレゼントしたとあります。
今回の本に使われているのが、そうした時のものであるのかどうかわかりませんが、扉絵
となっているのは朝鮮の女性がこどもをおぶっているように見えるのですが、違うで
しょうか。