2010 夏の読書 4

 あまり暑いと本を読もうなんていう気分にもならないかもしれませんですね。
夏の読書の代表というのは、長編小説でしょうが、汗をかきながら長編を読むと
いうのは、昔の若い人たちの話しであるかもしれません。
 そうした若い人もとしをとると、すっかりものぐさになるというのが、種村季弘
さんの晩年に重なる姿であるようです。
「雨が降っている。外へ出るのが億劫だ。車もない。あっても運転できない。こんな
ときにはソファに寝ころがって、行きたい町に本の上でつきあわしてもらうのが分
相応というものだ。ではどこへ行くか。今回はひとつ張りこんで、銀座といこう。」
 この文章が発表されたのは2002年 種村季弘さん69歳の時です。亡くなったのは、
04年ですから、その二年前のこと、自らの体調が優れないことが、このエッセイ集の
タイトルとなった「雨の日はソファで散歩」という連作につながったのかもしれません。

雨の日はソファで散歩 (ちくま文庫)

雨の日はソファで散歩 (ちくま文庫)

 この本は、種村さんが生前に自ら編んだ最後のエッセイ集だそうです。編集者の
桑原茂夫さんが、あとがきを書いていますが、このあとがきと巻末にある著作目録を
見ますと、これは是非とも買わなくてはという気持ちになります。
「2004年8月8日、静岡県三島市にある病院の一室で、私は窓際の小さなテーブルを
はさみ種村さんと向かいあった。編集者としてはじめてお会いしたときから30数年を
経ていたが、気構えをあらためての対面となった。種村さんは、自分が亡きあとの
さまざまなことについて、淡々と指示、あるいは望むところを語るのであった・・・
 あくまでも淡々と話す種村さんだったが、このエッセイ集はもとより、どの仕事に
ついても、そのひとつひとつに、いとおしむような、いつくしむような気配を感じさ
せる語り口が、生死の境に臆することのない、つよい遺志を感じさせ印象的だった。
 それから間もない8月29日種村さんはご家族に看取られながらお亡くなりになった。」