本の探偵 5

 「本の探偵」さんのところに依頼がたくさん舞い込むというのは、よく考えると
あまりよいことではないのかもしれません。そのように思っているのは、じつは
赤木さんご本人であります。
「 探偵をはじめて、一番先に気がついて、一番ショックを受けたのは、ナント
図書館、のことでした。
 わたしのやりだした、この探偵のお仕事は、本当をいえば、公共の図書館のお仕事
です。
 つまり、図書館の中には、わからないことを調べるーレファレンスーという機能が、
ちゃーんとあるんだね。・・・・・
 図書館員というのは、学校の先生やエンジニアと同じように専門職。
プロフェッショナルでなくちゃやっていけない。一人前になるのにやっぱり何年も
かかるわけです。・・
今の日本では、それがほとんど認められていなくて、きのうまで事務やってた人が図書館
にまわされたりする。」
 この世の中には、本が好きで公共の図書館に勤務したいと思っている人は、相当に
たくさんいるのですが、公共の図書館の場合には、なんといってもある種の公務員試験に
合格しなくてはいけませんので、図書館員としての熱意よりも、違った能力が優先される
ようです。
 今から25年前の図書館は、ほとんどがアナログの世界でありましたので、本の購入も
図書カードの作成もすべて手作業でありました。それがいまは、ほとんどコンピュータで
管理されるようになりましたので、アルバイトさんがやっても職人さんがやっても、
あまり仕事の質に差がでにくいことになっています。カウンターで相談でも受ける
(これぞレファレンス)ことがなければ、図書館員は腕の振るいようもないのでありま
した。そうして、本を借りにくる人が、ベストセラーと雑誌ばかりを求めるというので
は、これは特別な能力を必要とはしないようです。
 図書館業務へのコンピュータの導入というのは、ほかの公共の職場以上にそこで働く
人や地方の小さな本やさんにとって厳しいことになっています。
 あちこちの図書館が指定管理になっていますが、それはほとんど一社独占の世界です。
図書館のシステムまでも含めて導入となれば、日本中の図書館がこの会社によって、
グーグル化してしまいそうであって、そこに図書館職人の居場所はあるのでしょうか。
 すこしでもましな図書館にしようと思ったら、図書館職員もそうですが、レファレンス
を多用するような手強い利用者が存在しなくてはいけないようです。