書林逍遥

 テレビ業界の人であった久世光彦さんは、TBSを退社してからもテレビの現場で
活躍をするのですが、それと並行して、たくさんの著作を残しています。
 人の何倍もの仕事をしたのですから、すこし早くになくなったとしても、悔いは
ないのではと思います。どこまでいってもやり残したことはあるのでしょうが、
さすがになくなって4年もたちますと、久世さんの新刊はでなくなってきました。
死後にでた「久世光彦の世界」(柏書房 07年3月刊)を手にしますと、まだまだ
単行本未収録の文章があるようですが、これらはどうなりますでしょうか。
 この「久世光彦の世界」は川本三郎さんと斉藤慎爾さんが責任編集とありますが、
編集長をつとめたのは、斉藤慎爾さんであります。斉藤さんの編集後記には、次の
ようにありました。
「久世さんがなくなってすぐのことだったが、瀬戸内寂聴さんから電話で、「作家
としてどう評価しているの?」と聞かれた。予期せぬ質問に、「長らえていたら、
文学全集の1巻に収録される人、否、文学全集の監修を務める立場になった作家」と
答えてしまった。しばし沈黙があったのは、さすがに呆れて絶句されたのかもしれない。
従来から全集の監修は、谷崎潤一郎川端康成三島由紀夫小林秀雄級の大御所と
相場が決まっていた。どちらかといえばマイナーな作家である、久世さんは全集入収
すら常識的には難しいと、文壇事情を苦く知悉している瀬戸内さんは私の浅慮を
無言裡に嗜めたのかもしれない。」
 斉藤慎爾さんというと、深夜叢書社主人でありますが、この方が、このように
久世作品にいれこんでいるとは思ってもみませんでした。
 久世さんがセレクトした文学全集を見てみたいものですが、久世さんは、どの
ような作品をえらぶのでありましょうか。

久世光彦の世界―昭和の幻景

久世光彦の世界―昭和の幻景