岩波「図書」2月号

 今回の岩波書店「図書」2月号は、新しい連載がはじまったりして、大変読み応えの
あるものとなっています。普通の月刊誌の1月号は12月に店頭に並び、お正月には2月
号となり、営業的にはそうするしかないのでしょうが、月刊誌の世界はいつまでたって
も生活との時間差がうまりませんが、出版社のPR誌は、2月に届くものが新年号という
感じになります。具体的には、「みすず読書アンケート」掲載号を手にしますと、年が
あけてから制作された雑誌が届いたというような気分になります。
 昨日に引き続きで岩波「図書」2月号からの話題ですが、今月号は、あちこちに引用
したくなるものがあります。たとえば、「読む人・書く人・作る人」を書いている
港千尋」さんのものでタイトルは「字は活きている」というものです。
「 台北の中心地区、台北駅からも遠くない路地に、日星鋳字行という小さな印刷所が
ある。ここは長い間活字を鋳造し活版印刷所に提供してきたところで、現在では台湾最
後の活版印刷所である。
 写真集『文字の母たち』の中国語版が昨年台湾で出版された折、扉を活版で刷って
くれたのがこの印刷所だった。
 写真集はフランス国立印刷所と大日本印刷の活版部門という、パリと東京の活版印刷
所を撮影したものだが、撮影から五年を経てどちらも現存していない。
前者は『ガラモント』の名で知られる書体をつくった、五世紀の歴史をもつ印刷所。
また後者がつくりだした『秀英体』は、もっとも古い金属活字書体のひとつとして有名
であり、デジタル時代にも活躍している。
 いっぽう日星鋳字行には『正統楷書体』と呼ばれる金属活字の母型がそっくり残って
いる。大陸にも日本にもない、いわゆる繁字体の美しい活字を鋳造することができるこ
とから、若手のデザイナーや作家、編集者などがグループをつくって保存に乗り出して
おり、わたしもここで鋳造した活字をつかった展覧会を台北で開いた。」
 国内の出版物でも活版印刷のものは、ごくまれにでるのですが、これは大手出版社の
ものではなく、こだわりの版元からの少部数のものでありましょう。コストを無視して
活版印刷を依頼しようとしても引き受ける印刷所がなくなっているのでした。
 簡単なものであればできるのかもしれませんが、活字印刷からデジタルへの方向転換
となった現代となっては、活版印刷という技術自体が文化財のようになっているのであ
りますね。
 港千尋さんの文章は、次のように終ります。
「 重要なことは、美しい字を使い続けることです、と言う社長の張介冠さんは、
『簡体』でも『繁体』でもなく、『源体』となるような金属活字に本来の美しさを取り
戻したいと願っている。形と意味、物質と記憶のあいだには内的な連関があるのだ。
わたしはその『源体』で新しい作品を準備している。活字の旅に、果てはない。」
 日本での金属活字による印刷は、たかだか百年とちょっとでありましょう。木版に
よる印刷物というのが、それ以前にあって、これは数百年ほど続いたのではないで
しょうか。
 家の近くに、小さく活版印刷所という看板をかけたところがあります。昔からの長屋
風の建物の間口一間くらいのたたきのところに機械をおいて、あいさつはがきとか名刺
を印刷していたものです。いまから20年くらい前までは、そこのおじいさんが、たま
にある仕事をこなしているのが、外からでも見ることができました。入り口から入って
左手の壁に活字の棚があったように思います。いまでも看板があがっているということ
は、あいさつのはがきの作成を依頼しましたら、作成してくれるのでありましょうか。
 デジタル技術というのは、どのくらい続くのでしょうか。次に主流となる技術は、
どのようなものになるのでしょうか。