岩波「図書」2月号2

 岩波「図書」で連載となっている中野三敏さんの「和本教室」は、二十一回目と
なりました。江戸時代の出版事情のことをわかりやすく教えていただけて、勉強に
なる連載です。
 いまでこそ、出版産業は東京が中心となっていますが、かっては京都がその中心で
ありました。それが江戸時代になって東京に移っていまにいたっているのですが、
ということは、これからもそのような移動はあるということでしょうか。
「 近世の出版事業は京都を中心に始まり、大阪・江戸の三都に広がり、やがては
名古屋や和歌山にも規模は小さいながら本屋仲間が結成されるに至る。それらを
いわば公許の出版事業体と考えると、それ以外の諸地域で単発的に行われた出版を
”地方版”と称してみることもできよう。」
 江戸時代の出版で地方版の条件というのは、「資本主・出版元・彫刻(植字)、
印刷、製本、販売(配布)の一つでも地方に関するものがあること」だそうです。
 読む人がいたのですから、書く人もいたのでしょう。そうなると地方に一番欠けて
いたのは、作る人であったようです。こうした悪条件をどのように地方では克服した
のかですが、これについて中野さんは、地方版を成立させたのは「何としても享受者
に自らの思いを伝えて福利厚生に資し、教化の実をあげたいという、本造りの原点
ともいうべき姿勢である」と記しています。
 現在残っている地方版は、「お世辞にも上手な仕立てとは無縁の出来栄え」と
ありますので、出版を支えるのは、やはり「思いを伝えたいという」志なのであり
ましょう。