小さなことば 3

 大きなことばといえば、そのことばを母語とする人が多いものが頭に浮かびます。
中国語、英語、インド語なんてのがベスト3なんでしょうか。次に大きいというのは、
母語としている人の数はそうでもないが、国連のなかで公用語として使われている
ものなどが続くのでありましょうか。
「 ことばはいま現在、この瞬間、世界各地でたえまなく死んでいる。ある小さな
谷間の集落で、九十何歳かのおばあさんが死ぬ。若いものたちは、このおばあさんの
ことばをばかにして、とっくにテレビ・ニッポン語に乗り換えていたとする。
その時、この谷間語は、おばあさんの死とともに消え去って、二度とふたたび戻って
はこない。そういうことばに、たまたま文筆家や研究者などが注意をむければ、
世間は気をつけるだろう。例えば1898年、アントニオ・ウディーナという人物が
鉱山の爆発事故で死んだ。この人は、ロマンス諸語の比較研究で重要な地位をしめる
ダルマチア語ごという言語を話していた。しかもその最後の話し手であったから、
この人の死は、ある言語そのものの死でもあるという劇的な事件になり得た。」
( 田中克彦さん「国家語のさかえ、地域語のほろび」より)