真青な夏

 今年の夏はお天気が不安定なようです。
 本日の甲子園 高校野球は雨で中止となり、東京ではところによって冠水したと
ニュースで報道していました。
 それでも記憶に残る8月というのは、真青な夏なのですね。
「 あの年の夏は、いやに空が澄んで青かった。変に広々と何処までも続く青空で
あった。凛とした青空であった。きっとあの夏は、昭和の中でいちばん空の青かった
夏に違いない。
 その年の夏について書かれた小説は数えきれないくらいあるだろう。国が破れた夏
である。」 
 これは、久世光彦さんの「真青な夏」という文章の書き出しであります。初出は
「ブルータス」85年に掲載されていますが、87年に「昭和幻燈館」(晶文社)に
収録されています。( 元版の写真が紹介できませんので、ここでは中公文庫に
はいったものを紹介です。)

昭和幻燈館 (中公文庫)

昭和幻燈館 (中公文庫)

 テレビ局のドラマ演出家として絶頂期にあった時に、スキャンダルのため会社を
追われて雌伏の時に、依頼があったのはドラマの演出ではなく、文章を書くことで
ありました。この時に、久世さんに原稿を依頼した「ブルータス」編集部は、この
後に、久世さんがあんなにもメジャーな文章家となるとは思わなかったでしょう。
( 以前にも記したように思いますが、久世さんがテレビ局を辞めることになった
のは、悠木千帆(いまの芸名は樹木きりん)さんの発言でした。これがために、
悠木さんは久世さんが作家となったのは、わたしのおかげというのでありました。)

「 あの夏から秋への短い日々を思うたびに、私には思い出される一つの小説がある。
あの夏の川浪のようにキラキラ輝く小説である。その小説『村のエトランジェ』
(昭29)を、私は高校生の最後の冬に読んだ。作者は小沼丹、いわゆる<第三の新人
の一人である。」    
 小沼丹さんの「村のエトランジェ」は、やっと先月に文庫本となりました。
ちょっと高いのでありますが、容易に手にすることができるようになったことを
喜ばなくてはいけません。

村のエトランジェ (講談社文芸文庫)

村のエトランジェ (講談社文芸文庫)