「鉄塔武蔵野線」完全版

鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)

鉄塔 武蔵野線 (ソフトバンク文庫 キ 1-1)

                    
 昨年に「本の雑誌」で特集を組んで銀林みのるさん「鉄塔武蔵野線」が作者の
意図する完全版で文庫化されることを知りました。ちょうどソフトバンク文庫が
発足する創刊の一冊でありますが、これがなかなか購入することもできずにここに
いたっておりました。ソフトバンク文庫を揃えている書店がすくないこともあり
まして、手にする機会もなかなかなくて、でてから購入するに一年もかかった
わけです。
 この小説を読むには、もうすこし時間がかかりそうでありますが、まずは、
銀林さんのあとがきなどを読むことにしました。
「電気情報」という専門誌に寄稿した「鉄塔小説の誕生まで」という文章には
次のようにあります。
「 胸のうちに留めていた鉄塔へのこだわりが、いよいよ外部にむけて開かれる
 契機となったのが、20代の終盤、自宅近くの鉄塔における嵩上げ工事で
 あった。ある日、表通りの商店からでたとき、住宅地の屋根の上に突き出て
 いる鉄塔の形がいるもと違っていることに気づいた。左右対称であるはずの
 腕金が、上下バラバラに移動している。何が起こったのだろうかと不審に
 思い、近づいてみると、鉄塔や電線に作業員たちが登って工事の最中だ。
 私は実に久しぶりに、はっきりと、あからさまに、鉄塔というものを具体的な
 物体として目の前にし意識することになった。」

「 鉄塔たちの形状は永続的なものではない。彼等は頻繁に改造、改修、複雑化
 時には廃棄・解体され、その有様を変えてゆく。私たちがみているのは鉄塔の
 つかの間の姿なのだ。」

 このような文章がある本を手にしている時に、鉄塔の改修工事に従事していた
作業担当者が、地上40メートルのところから落下して亡くなったとのニュースを
見ました。鉄塔愛好家にとっては、鉄塔の改修作業に従事する人たちは、神に
仕える特別な存在にもうつるでありましょう。本日は鉄塔フェチにとっては、
たいへん悲しい日となったのでありました。