「図書」5月号 2

 岩波「図書」5月号を見て、目にとまった文章二つです。
 ともに当方にとっては初めてお名前を聞いた方でありました。お一人は小倉紀藏
いう方、専門は東アジア哲学とありました。TVで韓国語の講師などを勤めていますし、
著書もある方ですが、当方はこの文章で初めて知りました。
 文章は「京都、美とニヒリズムの路地」というものですが、書き出しが意表をつい
たものになっていました。
「いささか旧聞に属するが、B・B・キングがこの世を去ったときに日本の某新聞に
載った、ある追悼の文には失望した。日本で活躍する白人音楽評論家の手になるその
短い文では、B・B・キングの音楽そのものに対するオマージュよりも、むしろ彼の音
楽がいかに白人たちに多大な影響を与えたのか、ということがより熱心に解かれてい
た。」
 ちょっと奇をてらったタイトルといい、この書き出しといい、どういう風に着地す
るのか興味がわくことです。東アジア哲学専攻ということでは、もうすこし堅苦しい
かと思いきや、書き出しのつかみに拍手です。
 著者について検索をかけてみましたら、大学をでてから電通のコピーライターとな
り、そのあと韓国の大学院で哲学を専攻したとありました。いまは京都大学で教鞭を
とっているようですが、異色の経歴といってよろしいでしょう。
 「日本で活躍する白人音楽評論家」といえば、ピーターさんで、ここで話題になっ
ている文章は目にしているように思いますが、当方はその文章を見て、失望した記憶
もなしでありましたが、それはB・B・キングの音楽も、彼が影響を与えた白人の音楽
家のことも良く知らないせいでありましょう。
 しかしピーター・バラカンさんの書いたものに、このように異議申し立てをすると
いうのは、自信がなくてはできないことであります。
 どのような思考の経路をたどって冒頭の文章につながっていくのか、これがどうし
て「美とニヒリズムの路地」であるのか、これを理解するためには迷路のような路地
をさまようことになりそうです。