堀江さんとギベール 5

 ヴェネチュア映画祭審査員となって人前にでることになったバルテュスが眼の前に
いるからといって、記者ギベールがインタビューができるほど、バルテュスが御し
やすい人ではありません。
「ぼくは彼に話しかけてみた。黒眼鏡も取らず、こちらに視線すら下げずに、インタ
ビューなんてものは野蛮な行為だ、虫酸が走る、とバルテュスは言い、いらいらして
喉がいがらっぽいのか小さく鋭い咳をひとつしたが、それも『では失敬』などと言わ
ずにすます、体のいい厄介払いだった。バルテュスが爆発し、ぼくをののしり、狂っ
た雀蜂の群れの真ん中でもがくようにしてぼくを追い払うまで、何度も何度もくじけ
ず交渉を重ねた。」
 めげずに交渉をしたからといって理解を示してくれる相手ではありません。これ
じゃとりつく島もないと思っていたら、同じ審査員仲間の政治家さんにインタビュー
をしたところ、気にいってくれて、政治家がバルテュスを食事にさそっているので
その場に一緒しないかとギベールは言われるわけです。
 まさに千載一遇のチャンスであります。ギベールのことを「疫病神のように忌み
嫌っている」バルテュスも、大物政治家が主人の席となると、そこまで失礼なこと
はできずで、やむなくギベールと同じテーブルにつくことになったわけです。
もちろん、これは、大物政治家が吹き込まれたインタビュー計画であります。
ギベールが、「テレビ討論の司会者よろしく議論をつかさどり、バルテュスに非常
識きわまりない質問を重ねた」のであります。
 意外なことバルテュスは、この非常識な質問に対して、本音での回答をしたので
ありますね。食事を終わるやいなや、これを記事として「ル・モンド」に送ると、
これが大スクープとなったとあります。
 この記事がきっかけとなって、ギベールバルテュスから連絡を受けるように
なって、その後にはスイスの自宅に招かれるようになるのですから、わからない
ことです。